九州大学,ウクライナ国立科学アカデミー,スロベニア リュブリャナ大学,同ヨーゼフシュテファン研究所の研究グループは共同で,液晶の薄膜中においてハーフスカーミオンと呼ばれる渦状の秩序構造が自発的に形成されることを,理論的,実験的に初めて実証した(ニュースリリース)。
液晶はテレビや携帯電話のディスプレーに用いられる身近な材料だが,様々な秩序構造を自発的に形成することが知られており,物理学の興味深い研究対象でもある。今回着目したスカーミオンは様々な系で現れることが知られているが,近年特に強磁性体において現れるものが注目を集めている。
これまで議論されていた系とは全く異なる液晶の薄膜においてハーフスカーミオンが現れうることを,純粋な理論計算によって過去に示しているが,今回の研究では,光学顕微鏡による観察に基づいて,数百㎚の大きさのハーフスカーミオンが液晶中に実際に現れることを実験的に実証した。
その際,シミュレーションで得られた液晶の秩序構造が光学顕微鏡によってどのように見えるかについて理論計算を行なうことにより,実験で得られた顕微鏡像が実際にハーフスカーミオンに由来するものであることを明らかにした。
またハーフスカーミオンは格子を組むことも孤立した粒子のように振る舞うこともできること,ハーフスカーミオンの格子は光学顕微鏡下で熱揺らぎによる明滅を示すことなどの興味深い振る舞いについても,理論と実験の両面からの考察を行なった。
この研究は液晶の構造材料,光学材料としての新たな可能性を示し,液晶と他の系(強磁性体など)との類似や相違点に関する新たな視点を与えるとともに,数百㎚程度の微細な構造が光学顕微鏡によってどのように見えるかという理論的な難問の解決にもつながる成果だとしている。