沖縄科学技術大学院大学(OIST)は,ペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率を落とさずに,その寿命を4倍延ばすことに成功した。また,ペロブスカイトLEDをガスを使った化学蒸着(CVD)によって作製することに成功した(ニュースリリース)。
ペロブスカイト太陽電池には,寿命が短いという持続性の課題がある。今回,OISTの研究グループは,太陽電池そのものの構成要素同士の相互作用が,機器の急速な劣化にかかわっていることを示した。厳密には,太陽エネルギーから産出された電子を取り込み効果的に電流を作り出す酸化チタンの層が,隣り合うペロブスカイト層を不必要に劣化させていることを解明した。
そこで研究グループは,太陽電池の中にポリマーで作製したもう一層のレイヤーを追加し,酸化チタンとペロブスカイト層が直接触れ合わないような構造を考案した。ポリマー層は両者を絶縁する役目を果たすが,非常に薄いため,電流の行き来を可能にし,かつ太陽電池としての性能を減少させることなくペロブスカイト構造を効果的に保護する。
こうすることで,太陽電池のエネルギー変換効率を落とさずに,その寿命を4倍の250時間以上に伸ばすことに成功した。持続性という面ではまだ一般的な太陽電池に及まないものの,十分に機能するペロブスカイト太陽電池の開発に向けた大きな一歩となったとしている。
さらに,ペロブスカイトLEDをCVDによって作製することにも成功した。ペロブスカイト構造にある両極式電子は,太陽エネルギーから電気を作製だけでなく,電気を光に変換することができる。現在のLEDは,製造が難しく高価である半導体に頼っている。ペロブスカイトLEDは低コストでエネルギーを光に変換する効率に優れるほか,原子の配合を変えることで簡単に特定の色を発色させることが可能になる。
ペロブスカイトLEDの製造は現在,対象になる物質の表面を液体化学薬品に浸したり,液体化学薬品で覆う手法が基本だが,この方法は確立が難しく,小さい面積に限られたり,サンプル間の均一性に欠けることがある。これに対し研究グループは,化学蒸着(CVD)と呼ばれる手法による,ガスを使った初のLED作製に成功した。
化学蒸着は広く使われている技術であり,液体での処理法と比べて,1回1回のサンプル上の変動がかなり小さいという利点がある。また,広い面積の均一な表面に技術を施すことも可能になる。
ペロブスカイトLEDは多くの層から構成される。まず,インジウムスズ酸化物のガラス膜とポリマー層がLED内に電子を通す。ペロブスカイト層に欠かせない化学物質である臭化鉛と臭化メチルアンモニウム,これらがCVDにより,サンプルに連続して付着する。このとき,サンプルはこれまでの液体処理法によるコーティングの代わりに,ガスの吹き付けによってペロブスカイトに変換される。
ペロブスカイト構造の粒子のサイズは装置の性能によるが,この過程では,ペロブスカイト層は㎚レベルの粒子で作られる。粒子が大きいとLEDの表面は粗く,発光の効率が低くなる。粒子サイズが小さければ小さいほど,効率が向上しより明るく発光することができる。製造時の温度を変化させることで,大きさ調整の過程をコントロールし粒子のサイズを最も効率よい大きさにコントロールできるという。
最終段階で,その他2層に加え金電極の蒸着を行ない,LEDができあがる。この工程では,リソグラフィーを用いてLEDに特定のパターンを形成することも可能だという。このとき,電気から光への変換率を高めるには,隣接する層にどのようなものを選ぶかということも非常に重要となるという。
その結果,柔軟で厚いフィルムのような,表面のパターンを自由に変えられるLEDを作製することに成功した。現時点での輝度または明度は560カンデラ/㎡でと低いものの,研究グループは今後,輝度を1000倍以上に向上させることを目指すと共に,これまで作製した緑色の他に,鮮やかな青色または赤色を出すことを目指すとしている。