産業技術総合研究所(産総研)は,機能性材料の構造安定性を解析するため,放射光軟X線発光分光を用いて各元素の電子状態を詳細に分析する手法を開発した(ニュースリリース)。
この手法により,リチウムイオン電池の正極材料では,充放電動作を経た後の構造安定性と,遷移金属と酸素からなる混成軌道での電荷移動の充放電前後の変化とに密接な対応があることを見いだした。
革新的なリチウムイオン電池材料を創成するためには,これまでにない革新的な評価手法により得られた学理に基づくブレイクスルーが不可欠であり,電子状態に基づく材料設計指針の立案への期待は高い。
この技術は大型放射光施設SPring-8の軟X線ビームラインBL27SUの放射光軟X線発光分光によって得られた発光スペクトルの電荷移動効果に注目した解析手法で,結晶を構成する元素間の結合の強度を電子状態から議論し,電極材料の構造安定性と充放電サイクル特性とを関連づけたもの。今回開発した手法により,電子状態の理解に基づいた高い充放電サイクル特性を示す革新的リチウムイオン電池材料の開発への貢献が期待されるという。
今後は,電池を動作させた状態で,元素ごと,電子軌道ごとの詳細な電子状態を解析するオペランド測定を行ない,リチウムイオン電池の正極材料や負極材料の充放電機構の真の理解に努めるとしている。