北海道大学は,二段階にわたって分子をテンプレート化する(型に埋め込む)ことによって,ピクセル状のパターン構造を任意の液晶材料で作成することに成功した(ニュースリリース)。
ネマチック液晶は,異方性によって物質の光学的性質を電気的に変化させることができるが,その応用には分子を微細な領域で精密に並べる特殊な装置が必要となる。研究グループは,電圧を加えるだけで多数のトポロジカル欠陥を規則正しく配置させ,分子をピクセル状に並べる方法を発見したが,使用できる液晶化合物の種類に制限があり,電圧を切ると構造が崩れてしまうといった欠点があった。
今回,パターンを形成することが可能なタイプの液晶材料(ホスト分子)に,数パーセントの割合で光重合性モノマー(ゲスト分子)を加えた。使用するモノマーも棒状であるため,混合するとホスト液晶分子のすき間にはさまれ,ホスト液晶分子と同じ方向に並べることができる。適切な条件の交流電圧を混合試料に加え,ホスト液晶分子の性質を利用してピクセル状のパターン形成を行なった。
この時,ホスト液晶分子にはさまれているモノマーもピクセル状に配列しており,ホスト分子のパターンがモノマー分子にとっての鋳型(テンプレート)の役割を果たす。電圧を止めるとパターンを維持できない問題をクリアするため,パターンを誘起した状態で紫外光を照射し,モノマー分子を重合することで高分子ネットワークを作成した。ネットワークが骨組みの役割を果たすため,重合に使用されていないホスト液晶材料は電圧を加えなくても安定的に構造を保持することができる。
その結果,紫外線を照射するとモノマーが重合し,ピクセル状のパターンをそのまま安定化できた。重合した試料の温度を上げてホスト分子を液体状態にすると,骨組みのネットワークの屈折率異方性のみが残り,トポロジカル欠陥の様子を顕微鏡で観察できるようになった。さらに,光源としてレーザーを用いると,微小な領域を高分子化することができる。紫外線を照射していない部分は,引き続き電圧の影響を受けるので,様子を切り替えることができる。
続いて,高分子安定化した試料を,他の液晶材料に浸す実験を行なった。すると,徐々に中の分子が置き換わり,いわば「二段階目のテンプレート化」として,劣化させずに様子を変化させることに成功した。
今回使用したモノマーの濃度は数パーセントと低濃度だったが,今後はモノマーの割合を増加させることにより,自立膜(フィルム)の作成が期待されるという。通常,液晶材料はガラス基板に挟み込まれているが,フィルム化することで曲げたり,伸縮させたりすることが可能となる。アクチュエータや光学素子(レンズなど)などに関連した新しい研究題材を提供できるとしている。