物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは,高誘電体(高い誘電率を有する物質)として知られる層状ペロブスカイト構造を持つナノシートを作製し,原子レベルの層構造の制御により高誘電率化を実現し,膜厚10nm以下のナノスケール領域で世界最高性能(誘電率:470)を有する誘電体膜の開発に成功した(ニュースリリース)。
グラフェンをはじめとする原子層物質,2次元物質は,薄く強靭で,かつ高い電気伝導性などすぐれた性質を持つため,世界中で盛んに研究されている。2次元物質の電子デバイスへの応用が検討されている中で,グラフェンにはない新機能の開拓を目指そうとする研究,いわゆる「ポストグラフェン材料」への関心が急速に高まっている。
特に,電荷を蓄え,かつ絶縁性を有する誘電体は,コンデンサ,メモリ,トランジスタなどの電子デバイスに欠かせない。しかし,これまで開発された2次元物質の多くは電気伝導性材料であるため,2次元物質においても高い誘電率を有し,特性を自在に制御できる材料の開発が待ち望まれていた。
研究グループは,酸化物ナノシートをベースとした誘電体材料の開発を進めており,今回,高誘電体として知られる層状ペロブスカイト構造を持つ一連の物質群の中から世界最高の誘電率を持つ誘電体ナノシート(Ca2Nam−3NbmO3m+1; m=3–6)の開発に成功した。
この誘電体は,原子レベルで構造を制御することで,誘電率をコントロールすることが可能というユニークな特徴を持つ。実際,mを変化させ,単位ユニットに相当する金属酸素八面体(厚み:0.4nm)を1個増やすことで,八面体3個の3層型誘電体(誘電率:210)から誘電率が約80ずつ増加し,八面体数が6個の6層型誘電体では,膜厚10nm以下のナノスケール領域で安定な誘電特性,絶縁性を示し,世界最高の誘電率470と高い電気容量(203μF/cm2)を実現した。
以上の特性を利用すれば,従来の高誘電体と比較し,1/100の小型化と1000倍以上の大容量化を同時に実現する高性能のコンデンサ素子の開発が期待できるとしている。