新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにおいて,首都高技術,産業技術総合研究所および東北大学は,表面に汚れや傷がある状態でも,幅0.2mm以上のコンクリートひび割れを,80%以上の高精度で検出するAIシステムを開発した(ニュースリリース)。
高速道路をはじめとする社会インフラは,今後,建設から50年を経過するものが加速度的に増加するため,それらの経年損傷へのメンテナンスに対応するために必要な資金と専門知識を有する人材の不足が大きな社会問題となっている。NEDOでは,既存インフラの状態に応じた効果的かつ効率的な維持管理・更新等を図る取組として,インフラ構造物の画像データからひび割れ等を完全自動で検出し,損傷を把握できる技術の研究開発を推進している。
このNEDOプロジェクトにおいて研究グループは,デジタルカメラやスマートフォンによりコンクリート構造物を撮影するだけで,表面のひび割れを高精度に検出する点検支援システムを開発した。
過酷な環境下に長年さらされたコンクリート構造物の表面状態は,傷,汚れ,湿潤などの影響を受けることから,従来のひび割れ検出技術では正確な検出が困難だった。そこで,収集した多数のコンクリート表面画像データをAIで学習し,ひび割れを識別する技術を開発し,幅0.2mm以上のひび割れを実用化の目安である80%以上の高精度で検出することに成功した。
ひび割れに特有の特徴パターンを効率よく検出する画像解析技術と,特徴パターンを高精度に識別する人工知能技術により,機械学習型のひび割れ検出システムを構築した。機械学習用のデータとして,様々な状態にあるコンクリート構造物を撮影して多数のひび割れサンプル画像を作成した。このサンプル画像を教師データとして検出システムに学習させることにより,汚れや撮影状況の影響を受けにくいひび割れ自動検出が実現した。
なお,既存のひび割れ点検用の画像解析技術では,誤検出が多く,正解率は12%程度だった。今回開発した技術は,実用化の目安である80%以上の高精度で検出することに成功している。
この技術をクラウド上に構築したシステムに実装することで,現場でスマートフォン等の携帯型端末などから,いつでもどこからでも利用可能となる。今後は首都高速道路をはじめとするコンクリート構造物で実証実験を重ねていくとともに,ひび割れ検出Webサービス(無料公開)の利用結果を確認していく。2018年度末のプロジェクト終了時期までにシステムの実用化を進め,点検に係わる作業時間をおよそ300分から30分の1/10に短縮させることを目指す。