情報通信研究機構(NICT)は,超小型衛星(SOCRATES)を使い,東京都小金井市にあるNICT光地上局との間で,光子一個一個のレベルで情報をやり取りする量子通信の実証実験に成功した(ニュースリリース)。
多数の衛星を連携させ,地球全域をカバーする通信網や高解像度の観測網を形成する「衛星コンステレーション」構築への取組が活発化している。そこでは,短時間で大量の情報を安全に地上まで送信する技術が必要になりますが,従来の電波やマイクロ波は使用できる周波数帯が既に逼迫しており,通信の大容量化には限界がある。
これに対して,レーザを用いる衛星光通信は,広大な周波数帯を持ち,電力効率の高い伝送が可能なため,衛星通信網を支える重要な技術として期待されている。
また,更なる長距離・高秘匿化を実現できる衛星量子通信の研究開発も,各国で活発に行なわれている。2016年8月には,中国の研究チームが600kgの大型の量子科学技術衛星を打ち上げ,2017年6月に1,200km離れた2つの地上局に向けて衛星から量子もつれ配信を行なう実験に成功した。
NICTでは,超小型衛星(SOCRATES)に搭載された衛星搭載用小型光通信機器(SOTA)から,2つの偏光状態に0,1のビット情報をランダムに符号化した信号を毎秒1千万ビットの速度(10メガビット/秒)で地上局へ送信した。東京都小金井市にあるNICT光地上局では,口径1mの望遠鏡でSOTAからの信号を受光し,量子受信機まで導波してビット情報を復号した。
地上局に届いた信号には,パルス当たり平均0.1光子という微弱なエネルギーしか含まれていない。NICTは,この微弱信号を低雑音で検出できる量子受信機と,微弱な光子検出信号から直接,衛星・地上局間での時刻同期及び偏光軸整合を確立する技術を世界で初めて開発し,重量50kgの超小型衛星による量子通信を世界で初めて実証した。これは,従来の衛星光通信より更に高効率な通信や,情報漏えいを完全に防ぐ量子暗号の基盤技術となるもの。
今回開発した衛星量子通信技術は,これまで多額の予算と大型衛星が必要だった衛星量子通信を,より低コストの軽量・小型衛星で実現することを可能にするため,多くの研究機関や企業でも開発が可能になると期待されるという。さらに,限られた電力で超長距離の通信が可能となることから,探査衛星との深宇宙光通信の高速化にも道を切り拓くものだという。
今後,更なる光子伝送の高速化と捕捉追尾技術の高精度化により,衛星・地上間での量子暗号の実現と最終的には衛星コンステレーション上での安全な鍵配送や大容量通信の実現を目指すとしている。