東北大ら,中間赤外域分光で木星観測をアシスト

東北大学は,2016年7月から周回軌道に入り活動中のアメリカの木星探査機Junoとの共同観測をNASAと行なってきた。この中で,国立天文台すばる8m望遠鏡のCOMICS(冷却中間赤外線分光撮像器)を使って行なわれてきた観測成果公表された(ニュースリリース)。

2011年に打ち上げられたJuno探査機は,軽量化・低コスト化のため対流圏〜成層圏域の温度・組成・運動情報を握る中間赤外域の観測手段の搭載を断念し,「地上観測で補完する」という戦略を取っている。

すばる望遠鏡が擁するCOMICSは,近年ではほぼ世界唯一の中間赤外域の広帯域分光が可能な装置。日本はJuno探査機計画に直接参加していないが,この装置によって貢献をすることができた。

特に5月の観測は,Juno探査機の「第6回最接近観測」をカバーする機会となり,Juno探査機が北から南へと通過したその直下域を含む領域の雲層〜成層圏大気の温度場・雲層厚およびその運動・時間変化を与えることができた。

Juno探査機による初の深部情報(100気圧域にまで達する)との結合で木星の擾乱領域で初の「3次元大気情報」を得ることが可能となる。この観測では,すばるは8mの大口径を生かし約1,000-kmの空間分解能を得ているが,これは Juno探査機による最接近時のマイクロ波観測での空間分解能に匹敵する。

木星は,電離したイオ噴出ガスが駆動する太陽系で最も激しいオーロラ発光をその南北両極に擁する。1月・5月のCOMICS観測では,この発光高度(〜500km以上)よりも低い高度でメタン発光が見られることも明らかにした。

これは,オーロラを光らせる高エネルギー粒子が大気へ深く侵入し,木星大気を温め,またCH系有機物を生成する化学反応を引き起こしうることを示す。「高エネルギー粒子の衝突」は,かってメタン等も存在したであろう原始地球大気でも起きた現象で,惑星での大気化学反応プロセスを考える上で貴重な情報となる。

東北大学では,中核を担うJAXA「ひさき」紫外線・極端紫外線望遠鏡衛星や東北大学望遠鏡施設では,木星の強烈な放射線帯活動,イオ火山活動,これらと結合する木星オーロラ・磁気圏活動を長期連続観測しており,これらとJuno探査機最接近データとの結合解析を進行させつつある。

これらの成果は,搭載装置提供によって参加予定の欧州木星探査機JUICEによる低周波電波(RPWI),サブミリ波電波(SWI)による観測にも活かされていく予定。

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