東京大学,日本原子力研究開発機構,J-PARCセンター,総合科学研究機構の共同研究チームは,中性子ビームを利用して,マンガンとバナジウムの複合酸化物における電子スピンのふらつきを測定し,磁性体において熱の伝わり方や磁石の向き,磁石の強さなどをコントロールする場合に重要な指標である電子スピンのふらつきが電子軌道の変化と結びついていることを明らかにした(ニュースリリース)。
研究では,実験による測定値を,コンピュータを用いた数値計算の結果と比較し,その結果,電子スピンが1秒間に5兆回の速さでふらついた場合に,電子の軌道も変化すると考えないとつじつまが合わないことを明らかにした。
これまでに,非常に多くの物質でスピンのふらつきが観測されてきたが,電子の軌道は変化しないと考えても説明がつくものだった。それに対して今回の物質では,電子スピンのふらつきが電子軌道の変化と結びついており,電子軌道を強制的に1秒間に5兆回変化させればその速度で電子スピンのふらつきが生じることが示唆された。
この物質では,外部から光や力を与えることによって電子軌道を変化させることも可能。光や力を与える周波数を調整することにより,電子軌道を5テラヘルツで大きく変化させれば,それと結びつく形で5テラヘルツという超高速な磁気制御が可能となることを原理的に示したことになる。
研究グループでは,今後,どのような物質で電子スピンと電子軌道が強く結びつくのかを系統的に調べる予定。室温において磁石としての性質を持ち,なおかつ,電子スピンと電子軌道が強く結びついた物質を開拓することで,革新的な熱伝導制御や超高速磁気制御につながることが期待されるとしている。