大阪府立大学,日本原子力研究開発機構,発電設備技術検査協会らの共同研究グループは,原子炉構造物の溶接部における応力腐食割れを抑制するための表面改質技術のひとつである「ショットピーニング」工法によって発生する圧縮力(=圧縮残留応力)を,実用レベルで解析するシステムの開発に成功した(ニュースリリース)。
原子炉溶接部の長期安全性を確保するためには,部材に加わる引張力と腐食環境とが同時に作用して発生する“割れ”である応力腐食割れを防止することが重要であり,その防止策のひとつとして,「ショットピーニング工法」(SP)が用いられている。
SPは,部材表層に圧縮残留応力を導入することで割れの発生を抑えているが,これまで,SPによって導入される圧縮残留応力や,そのプラント稼働期間中における持続性を予測する手法はなかった。そのため,SPの施工条件の決定やSP施工後の耐応力腐食割れ性の評価のためには,多量の実験を行なう必要があった。
研究グループは,超大規模超高速非線形構造解析手法である「理想化陽解法有限要素解析手法」にSPの力学モデルを組み込むことで,SPによって導入される圧縮残留応力とその持続性を実用レベルで予測できる解析システムの開発に初めて成功した。
構築した解析システムの解析結果の妥当性を検証するために試験体を実際に製作し,ショットピーニング施工後の残留応力をX線回折法によって実測したところ,実測結果はほぼ一致しており,構築した解析システムにより,実用上十分な精度で残留応力が予測できることが確認された。
この研究成果は,原子炉溶接部における応力腐食割れ発生リスクの低減に有効であり,また,波及効果として,SPが適用されている船舶や橋梁などの溶接構造物や自動車の機械部品などの開発期間短縮や,強度信頼性向上への貢献が期待されるという。