応用物理学会 微小光学研究会は2017年6月13日,東工大蔵前会館くらまえホールにおいて「無線給電に光の出番はあるか」をテーマに第144回研究会を開催した。
無線給電は,ICカードやスマートフォン,電動歯ブラシ,電気シェーバーなどで実用化されているが,その適用領域はさらに広がっていくものと見られている。無線給電の方式には,電磁誘導方式や磁界共鳴方式などの結合型と,電磁ビームを利用する放射型に大別されている。光を用いる無線給電は放射型に位置づけられるが,レーザーを用いる給電方式が提案されている。
今回の研究会では,まず,東京工業大学・准教授の宮本智之氏が光を用いる無線給電の意義や技術課題に加え,現在進めているVCSELレーザーと太陽電池を組み合わせた光無線給電研究を紹介した。続いて,科学技術振興機構の横森清氏が光無線給電の特許件数の現状を示したうえで,光無線給電研究に対する今後の期待を述べた。次に理化学研究所・理事長の松本紘氏による特別講演が行なわれ,宇宙太陽光発電とワイヤレス給電の構想と研究開発の歴史が語られた。
プログラムには電磁融合方式と磁界共鳴方式を利用する無線給電の開発動向も盛り込まれ,小型機器向けMHz帯磁界結合ワイヤレス給電技術について村田製作所・細谷達也氏が,EV用ワイヤレス電力伝送技術の最新動向について早稲田大学の高橋俊輔氏がそれぞれ講演した。
光方式では,「KTN結晶を用いた光ビームスキャナーとその光無線給電応用の可能性」をテーマにNTTアドバンステクノロジの藤浦和夫氏が,「光無線給電用の太陽電池には何が必要か」をテーマに東京工業大学・宮島晋介氏が,「太陽光励起レーザー/単色光型太陽電池結合発電と自動車へのレーザー給電の可能性」をテーマに名古屋大学の伊藤博氏が,「光無線給電によるナノレーザーとバイオセンサ応用」をテーマに横浜国立大学・教授の馬場俊彦氏が,「宇宙太陽光発電におけるレーザー無線電力伝送技術」をテーマに宇宙航空研究開発機構の鈴木拓明氏がそれぞれ講演を行なった。
光無線給電の社会実装に向けては,解決すべき課題も多い。特にレーザーを利用する場合には,安全性の確保が求められる。技術面でも給電効率の向上が挙げられている。光無線給電の研究開発は端緒についたばかりだが,その有用性を浸透させていくには,既存方式との差別化という意味でも明解な概念が必要とされている。今回の研究会には170名を超える参加者が集まったが,配線を身の回りに見かけないという,新しい世の中を思い描く良い機会になったに違いない。
※なお,光無線給電の構想,研究開発の詳細は月刊オプトロニクス2017年6月号に掲載されている。