東京工業大学と京都大学の研究グループは,ビスマスとコバルトを含むセラミックスにテラヘルツ光を照射すれば,非線形光学特性が5割以上増強する現象を初めて発見した(ニュースリリース)。
研究対象とした物質は,ビスマスとコバルトを中に含む酸素4面体で構成されたユニットが3次元的に連なった構造を有しており,東工大が開発した。これは強誘電体材料として有名なPbTiO3結晶と同型である。ピラミッド構造を持つ4面体の頂点方向が結晶内で同一の方向を向いており,全体としてマクロな極性構造を持つ。実際,巨大な自発分極が観測されている。
この物質では極性構造に起因する二次の非線形感受率が存在するため,SHG効果を容易に観測することができる。研究グループは,この試料に対し京大が開発した,尖頭値が約1MV/cmの電界強度を持つテラヘルツ光パルスを照射した。ポンプ―プローブ分光法を用いて,試料から発生するSHG光強度がテラヘルツ光照射にともないどのように変化するかを測定した。
実験の結果,試料から発生するSHG強度は,テラヘルツ光パルスの照射によって瞬時に増強することが観測された。最大電界強度0.8MV/cmのときSHG強度は5割以上増えた。これは,テラヘルツ光が結晶の歪みを引き起こし,二次の非線形感受率を増大させたために発生したものであり,試料の非線形光学応答の性能指数が劇的に増大したことを意味する。
さらに,そのSHG強度変化のスピードは,照射したテラヘルツ波の波形に追随しており,1ピコ秒以内に変化し元の状態に戻ることがわかった。このような巨大,かつ高速の非線形光学応答の変化はこれまで全く見られなかったものであり,新しい非線型光学材料の性能指数を制御する手法を示す。
以上の研究結果から,テラヘルツレーザー光が極性材料の波長変換特性を大きく向上させる可能性が明らかになった。室温かつ非接触での新しい非線形光学材料の性能指数アップの技術やテラヘルツ電磁波によって制御される超高速データ処理のための新たな超高速光電子デバイス開発につながることが期待される。
また,強誘電材料が持つ他の有用な性質(アクチュエーターやキャパシタなど)もテラヘルツ光の照射によってその機能を大幅アップできる可能性を強く示唆するとしている。