近畿大学と横浜国立大学の共同研究グループは,円偏光の回転方向と色(波長)を同時に切り替える「スイッチング」機能を持った円偏光発光(CPL)色素を開発した(ニュースリリース)。
高輝度液晶ディスプレー用偏光光源等に期待される,CPLを発するキラル有機蛍光色素の開発に関する研究は,近年大きな注目を集めている。多くの場合,CPLは見た目の発光(PL:Photoluminescence)の極大と同じ波長領域に観測され,その強度と掌性(回転方向)は,発光体の置かれるキラル環境に大きく依存することが知られている。
特に最近では,光照射やイオンの添加などの外部からの刺激に応答して,CPLの波長や強度,掌性をスイッチングできるキラル有機発光体に関する研究報告が増加している。しかしながら,PL極大を同一領域に維持したまま,CPLを二領域間でスイッチングできる蛍光色素は存在していなかった。
研究では,分子内に二つのピレン環を有する新しいキラル有機蛍光色素を設計・合成した。まず,キラル有機蛍光色素は,横浜国立大学が最近開発した二重不斉付加反応を活用することで新たに合成した。
得られた新色素のCPLは,トルエン中低濃度条件(10‒5M)においては,ピレンのモノマー発光に由来するPL極大(発光極大波長λem=424nm)に負のCPL極大が観測された。
また,蛍光色素の濃度を増加させるとPL極大からのCPLは小さくなるとともに500nm付近からの正のCPLが増大し,飽和溶液では強度が逆転した。すなわち,この蛍光色素では濃度を変化させるのみで,PL強度を同一領域に維持したまま,掌性の反転を伴うCPLの二領域間スイッチングを実現することができた。
これは,モノマー発光とエキシマー発光との間でCPL発光効率が大きく異なることが原因であると分かっているという。
研究では,CPL発光特性の異なるモノマー発光とエキシマー発光を切り替えることに成功した。この研究で得られた知見を元にすることで,CPLスイッチング技術の実用化に向けた研究が大きく加速されることが期待できるという。
特に,PL強度の小さい領域において,CPLのみが大きく増大するこの成果は,CPLのみで検知可能な暗号通信技術などのセキュリティ分野への応用に繋がるとしている。