東京工業大学の研究グループは,特定の組成を持つ化学物質を認識し,紫外光(UV)を照射すると蛍光が消光されて分解する,光トリガー分子を発見した(ニュースリリース)。
ターゲット物質に応じて,適切なセンサー分子を搭載した様々な形態のデバイスが作られている。中でも光や色によって検知できるシステムは,迅速に大量のサンプルを分析することができ,さらに感度に優れた蛍光発光を用いることができる。
しかしながら,検出対象となる物質は増え続けており,画期的な検出機器の開発が求められていた。今回,検出の対象とした有害な水質汚染監視物質であるトリハロメタンは,水の塩素消毒の際に水中に含まれる有機物と反応して生成するか,直接投棄によって環境中に蓄積される。
研究グループは,最近,溶液では光らず,固体になると発光する凝集誘起発光分子の新しい分子群と発光・消光メカニズムを発見。その発光メカニズムを詳細に検討する中で,いくつかの分子が今回の高分子ゲルに応用可能な光トリガーの性質を持つことを発見した。
光トリガーは,ターゲット物質と出会うと(1)蛍光が消光(蛍光強度が低下)し,(2)自身を分解するという2つの反応が起きる。この蛍光消光と分解は連動しており,シナジー効果が存在する。このような機能分子を高分子ゲルの架橋剤とすることで,特定の物質を加えて光照射すると,蛍光消光と分解による流動化で,形状が変わり,物質の検出を行なうことができる。
光トリガー分子は,1,4-ビス(ジピペリジル)ナフタレンという単独で,青色発光を示す蛍光色素。この色素を組み込んだゲルは,炭素に塩素原子3つ結合したトリハロメタンの場合に蛍光が消光し,炭素に塩素原子2つ結合したジハロメタンの場合は,消光せず青色発光となり,クロロホルム(CHCl3)と塩化メチレン(CH2Cl2)を選択的に検出することができる。
この光トリガー分子を架橋剤に用いた高分子ゲルにクロロホルムを加えてUV光を照射すると,発光とゲルの崩壊という2つの方法によりクロロホルムを検出することができる。一方,塩化メチレンでは発光するが,ゲルは崩壊しない。
これまでに知られている様々な蛍光色素の中に,光トリガー分子の考え方を適用できる分子が多数想定される。今後は,それらを用いて,簡便な分析が困難な物質の検出法を開発していくとしている。