東北大学,中国吉林大学,米オクラホマ大学の研究グループは,量子ホールの端状態が存在する構造と存在しない構造で核スピンの偏極特性を比較することで,量子ホール効果のもとになる試料端における方向の決まった電子の流れが核スピン偏極やそれをもとにした抵抗で検出する核磁気共鳴(NMR)に与える影響をはじめて明確にした(ニュースリリース)。
抵抗で検出するタイプのNMRは半導体量子構造に閉じ込められた電子のスピン状態などを計測したり,核スピンの量子状態を制御したりすること に用いられてきたが,核スピン偏極が量子ホール効果の基本的な特性とどのように結びつくかにはまだ多くの疑問が残っている。
量子ホール状態で核スピンを偏極するには異なるスピン状態が島構造を作る状況を利用して,島から島に電子が移るときに,電子スピンが反転すると同時に核スピンが反転する現象(フリップフロップ・プロセス)を利用する。
研究グループはインジウム・アンチモン(InSb)の二次元構造を用いると,この島構造が最も基本的な整数量子ホール効果で実現でき,しかも核スピン偏極ならびに抵抗で検出するNMRが実現できることを2010年に見出していたが,この性質を発展させて今回の成果に結びつけた。
発見した核スピンに由来する信号の相反性は,量子ホール端が量子ホール系における核スピン偏極に重要な役割を果たしていることをはじめて明確に示したもの。量子ホール系における電子スピンと核スピンの相互作用のメカニズムの解明,ならびに量子ホール端状態を利用した核スピン偏極とそれを用いた抵抗で検出するNMRに大きく貢献するものだとしている。