東京大学の研究グループは,放射光施設SPring-8において,東北大学の研究グループの作製した強磁性を示す合金である鉄白金薄膜を用いて,時間分解磁気円二色性測定に成功した(ニュースリリース)。
スピントロニクスでは高速化に向けて,磁場ではなくレーザーなどの光によってスピンを制御することが,今後のデバイス応用に向けて盛んに研究されている。そこで研究では,SPring-8において,放射光軟X線を用いた時間分解XMCDの測定装置を建設し,測定を行なった。
測定対象には,強磁性を示す合金である鉄白金の薄膜に注目。この鉄白金の薄膜は,室温で強磁性を示し,面直方向に磁化が向きやすい垂直磁化膜であるため,応用面でも期待されている。この物質にレーザーを照射することで磁化を消す消磁のダイナミクスの観測を目指した。
測定に用いた鉄白金の薄膜は,5×5ミリメートルの基板上に作製され,単結晶で膜厚は50㎚程度となっている。消磁の時間スケールは約50ピコ秒が観測されたが,これは放射光の時間幅であり実際にはもっと短いと考えられるという。消磁を起こすためのレーザー強度に閾値的な振る舞いも見られており,これは光で誘起した相転移に特徴的なものだという。
この研究により,鉄白金薄膜における消磁のダイナミクス観測に成功した。これは,日本の放射光施設で唯一のセットアップであり,今後の系統 的な磁性体のスピンダイナミクス研究に活用することができるという。放射光を用いるメリットとして,元素別のスピンダイナミクス観測など,実験室光源では得られない研究展開が期待できる。
さらには,レーザーを用いて消磁のみでなく磁化の反転を起こす現象も2つ以上の磁性元素を含む金属で見られており,そのメカニズム解明も今回の手法で可能だと考えられるという。