産業技術総合研究所(産総研)は,従来の光学顕微鏡では観測できない極めて弱い光でも,明瞭なカラー画像を観察できる「光子顕微鏡」を世界で初めて開発した(ニュースリリース)。
光子は粒子の性質を持つが,同時に波動性も持つため固有の波長も持っている。アインシュタインの光量子説では,光子のエネルギーと波長には相関性があるため,光子のエネルギーを測定すればその波長も識別できる。
産総研が開発した超伝導光センサーは,超伝導薄膜からなる光検出部と,光を閉じ込めるための誘電体多層膜からなる。極低温に保持された光検出部に光子が入射すると,光子のエネルギーによって一時的に超伝導状態が壊れ,電気抵抗が変化する。その抵抗変化の大きさから光子のエネルギーが分かるので,光子の波長を識別できる。
今回、この超伝導光センサーを光学顕微鏡の光検出器に用いた光子顕微鏡を開発した。まず,観察する試料のある場所からの極微弱光をレンズ系で集光し,光ファイバーで冷凍機内の超伝導光センサーへと光子を導く。超伝導光センサーは,冷凍機内で温度100mKに維持されている。
到達した光子を超伝導光センサーで1個ずつ分離検出してそのエネルギーを測定し,ある一定の時間内に到達した光子の数とそれぞれのエネルギー(波長)から,測定場所の試料の色を識別する。試料を走査して,場所ごとにこの測定を繰り返すことで,カラー画像が構築できる。
実験では,光学顕微鏡では色を見分けることが困難な環境下でも,光子顕微鏡は,赤,黄,青の各色を明瞭なコントラストで識別できた。この測定では1測定点あたりの光子数は,平均して20個程度(露光時間50ms)であり,これは0.16 fW(フェムトワット)程度の極微弱な光強度に相当する。これほどの極微弱光で鮮明なカラー画像が得られたのは世界初。
今回光子顕微鏡に用いた超伝導光センサーは,波長200nm~2µmの紫外光や赤外光領域も含む広範な波長領域の光子を識別でき,スペクトル測定も可能。光の反射・吸収の波長や,発光・蛍光の波長は物質により異なるが,広い波長領域で光子を検出できる。
今回は反射光の光子を観察したが,今後,生体細胞からの発光や化学物質の蛍光などを観察し,今回開発した光子顕微鏡の更なる有効性を実証する予定。また,超伝導光センサーの高感度化とともに,超伝導光センサーの多素子化により,試料からの極微弱な発光や蛍光のカラー動画を撮影できる技術の開発にも取り組む。