名古屋大学と京都大学の研究グループは,緑藻において体内時計をリセットする赤や紫の光情報の伝達経路の構成因子を世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。
緑藻は体内時計を持っており,体内時計は光によってリセットされる。緑藻の体内時計の場合は,ほぼ全ての可視光域の光がリセットに有効であることが知られている。とりわけ,赤や紫の光が効果的だが,緑藻においてそれらの光情報を受容伝達する分子メカニズムはわかっていなかった。
研究グループは,これまでに緑藻の一種を用いて,体内時計の研究を進めてきた。まず最初に,緑藻の体内時計の中核をなす「時計遺伝子」を網羅的に決定した。さらに,時計遺伝子が作るタンパク質の一つであるROC15が,細胞が光を浴びた直後に急速に分解され,これが引き金となって体内時計がリセットされることを明らかにした。今回の研究では,そのROC15の分解を引き起こす光情報の伝達系路に焦点を当てて研究を行なった。
未知の経路を明らかにするために,順遺伝学(forward genetics)の手法を用いた。まず,藻のゲノムにランダムに遺伝子変異を導入し,得られた約1万4千の変異体を詳細に解析した。その結果,一つの変異体においてROC15の光応答は,赤の光に対しては全く起こらず,紫の光に対しては弱い応答しか示さなかった。一方,青の光に対しては正常な応答を示した。これらのことから,この変異体は赤や紫の光を受容伝達する経路に異常を持つことがわかった。
この変異体において遺伝子の解析を行なった結果,緑藻でこれまで研究されていなかった遺伝子に変異を持つことがわかった。その遺伝子がコードするタンパク質は,哺乳類においてSHOC2と呼ばれるRAS/ERK情報伝達経路に関わるロイシンリッチリピートタンパク質と類似していることがわかった。研究グループはこの遺伝子をCSL(Chlamydomonas SHOC2-like Leucin-rich-repeat protein)と命名した。
この研究は,緑藻における赤や紫の光の情報伝達経路の構成因子を,世界で初めて明らかにしたもの。今後,CSLやそれに関連する因子の解析により,この経路の分子メカニズムの全体像が見えると期待できる。緑藻においては,主として赤や紫の光を受容するセンサーがまだ見つかっていない。そのため,この研究は未知の光センサーの発見につながると期待できるという。
また,一部の緑藻はバイオ燃料の供給源として期待されている。体内時計は,緑藻の多くの生命活動と直結しているので,今回の研究成果は,体内時計の調節を介したバイオ燃料の増産につながる可能性もあるとしている。