東京工業大学と物質・材料研究機構(NIMS)を中心とする日独共同研究グループは,砂と空気の主要元素であるシリコン (ケイ素) と窒素からなる窒化ケイ素から,全物質中で3番目に硬い透明セラミックスの合成に成功した(ニュースリリース)。
窒化ケイ素セラミックスは硬く,割れにくく,高温に耐えられるため,自動車エンジンやガスタービン内部の部品,特殊な合金を削るための刃物として利用されている。窒化ケイ素(Si3N4)は13万気圧以上の高圧力と高温の条件下で,大気圧下では合成することができない「スピネル型窒化ケイ素」へと相転移する。
この物質はダイヤモンド,立方晶窒化ホウ素に次ぐ,全物質中で3番目に硬い物質の候補であると考えられるようになったが,純粋で緻密に焼き固まったスピネル型窒化ケイ素を合成するのは実験的に困難なため,硬さや割れにくさといった構造材料としての性能を評価する上で不可欠な性質は,これまでよくわかっていなかった。
研究グループは,スピネル型窒化ケイ素を16万気圧,1800℃の条件で合成し,緻密で透明なスピネル型窒化ケイ素多結晶体を得た。この物質の透明度は,レンズや窓材に使われる光学部品と同等であることを確認した。透過型電子顕微鏡で観察したところ,1粒の大きさが150㎚程度のスピネル型窒化ケイ素がランダムな方向で焼き固まったナノ多結晶体であることがわかった。
また,この物質の硬さを測定したところ,2つのホウ素化合物(B4C,B6O)と同程度の硬さを持ち,全物質中でダイヤモンド,立方晶窒化ホウ素に次ぐ3番目に硬い物質の1つであることがわかった。
これらの硬質物質のうち,光学的に透明で緻密なナノ多結晶体となるのはダイヤモンドとスピネル型窒化ケイ素。したがって,スピネル型窒化ケイ素は,ダイヤモンドに次いで硬い透明ナノセラミックスである。一方,その耐熱性はダイヤモンドを大きく勝る。ダイヤモンドは空気中700-800℃で黒鉛化および酸化するが,スピネル型窒化ケイ素は,空気中で少なくとも1400℃の高温まで存在することができる。
スピネル型窒化ケイ素・ナノセラミックスは光学的透明さ,全物質中3番目の硬さ,ダイヤモンドを凌ぐ耐熱性をもつので,過酷な環境で使用される機器の光学窓材としての利用が期待される。
窒化ケイ素には,その結晶構造の中に酸素やアルミニウム,さらにイオン半径の大きな希土類元素など,様々な元素を加えることができる。高い圧力を加えスピネル構造にすることによって半導体としての利用,光を発する蛍光体への応用も可能になるかもしれないとしている。