理化学研究所(理研)と東京工業大学の共同研究グループは,理研が開発した光波長変換技術による小型・室温動作・高感度テラヘルツ波検出装置を用いて,東工大が開発した共鳴トンネルダイオードからのテラヘルツ波放射を高感度に検出することに成功した(ニュースリリース)。
テラヘルツ波領域は次世代の非破壊検査技術の有力な候補として注目されているが,光源や計測装置の冷却が必要なため,室温で動作する高性能なテラヘルツ波光源およびテラヘルツ波計測技術の開発が急務となっている。
これまで理研は,室温において高感度なテラヘルツ波検出を実現するために,テラヘルツ波を近赤外光に変換し,変換した光信号を近赤外光検出器で高感度に計測する方法を開発してきた。一方,東工大は,将来の標準的な小型・室温動作・連続発振テラヘルツ波光源として期待されている,共鳴トンネルダイオード(RTD)を開発してきた。
研究グループは,RTDから発生したテラヘルツ波を光波長変換によって検出する実験を行なった。RTDから発生したテラヘルツ波は,テラヘルツ波用レンズを用いて非線形光学結晶であるニオブ酸リチウムに集光させた。
そして,波長1,064.3nmのパルスレーザー光を励起光に用いて,テラヘルツ波を近赤外光に波長変換した。発生した近赤外光は空間フィルターを用いて励起光と分離し,RTDからのテラヘルツ波に由来する近赤外光のみを近赤外光検出器を用いて計測した。
実験の結果,発振周波数0.58THzのRTDを用いた場合は波長1,066.6nmの,0.78THzの場合は1,067.3nmの,1.14THzの場合は1068.6nmのテラヘルツ波から波長変換された近赤外光をそれぞれ観測することに成功した。
このときの励起光とテラヘルツ波に由来する近赤外光の周波数の差が,テラヘルツ波周波数に相当している。また,入力するテラヘルツ波のパワーを減衰させたところ,周波数1.14THzのとき最低検出可能パワーとして約5nWの高感度検出を実現した。
これは,従来の光波長変換による検出と比較して100倍以上高い感度。また,光波長変換技術を用いることで,観測される近赤外光の波長および出力からRTDの発振周波数および出力を測定できることを示した。
今回用いた実験装置はすべて室温で動作するため、さまざまな応用分野での利用が期待できる。今後は,単素子だけでなく複数の素子を集積化したRTDからの多周波数のテラヘルツ波を近赤外光に同時に波長変換することで,多周波数のテラヘルツ波のリアルタイム計測が可能になる。
このような計測手法は,情報通信研究機構(NICT)と理研が公開しているテラヘルツ分光データベースと組み合わせることで,実現できる可能性があり,こうした研究は,テラヘルツ波領域の小型非破壊検査システムの実用化につながると期待できるとしている。