東京大学と米プリンストン大学は,光照射された半導体にできる電子と正孔の集団を舞台として生じる,絶縁体から金属への転移(励起子モット転移)の境界領域で,異常な金属状態が発現することを発見した(ニュースリリース)。
半導体に適当な波長の光を照射すると,自由電子とその抜け穴,正孔ができる。電子と正孔は低温低密度では,互いにクーロン引力を及ぼしあい,水素原子と同様の束縛状態,励起子を形成する。
励起子は全電荷がゼロなので励起子が動いても電荷は運ばず,そのため励起子の集団は絶縁体とみなせる。照射する光の強度を強くして励起子を高密度にすると,励起子は電子と正孔に解離して,系全体は金属的な振る舞いを示すようになる。
この電子正孔系で生じる絶縁体から金属への変化は励起子モット転移と呼ばれ,長い研究の歴史があるが,それが極低温でどのように生じているのか,また,絶縁体と金属の境界領域では電子正孔系がどのような状態になっているのかはよくわかっていなかった。
今回,研究グループはテラヘルツ波を用いて,半導体GaAsを対象に励起子モット転移を詳しく調べた。特に,結晶を液体ヘリウムで温度5K(-268 ℃)まで冷却し,さらに光を照射しても電子系の温度が上がらない工夫をして調べた。
その結果,過飽和状態の励起子から励起子モット転移を経てできた極低温の金属状態は,金属相であっても電子と正孔がお互いに引力を及ぼしあって,自由に動きづらくなった異常な金属の状態にあることを発見した。
さらに,観測された異常金属状態が,約半世紀前に理論的に予測されながら未だ明確な実証がなされていない電子正孔BCS状態の前兆である可能性を提示した。
異常金属相は,高温超伝導体を含む強相関電子系でモット転移の境界領域に現れることがすでに知られていたが,今回の研究成果のように光励起された半導体の電子正孔系で観測された例は初めてで,モット転移の普遍的な性質を反映していると考えられるという。
研究グループは,励起子モット転移の理解が進むことで,電子正孔BCS状態などの新しい電子相の探索や、新しい光機能の開拓が進むことが期待されるとしている。