近畿大学理と大阪大学の研究グループは,約-50℃以下の低温環境下でのみ,らせん状に回転しながら振動する光である円偏光を発する円偏光発光体,CPL発光体を開発した(ニュースリリース)。
偏光のうち,らせん状に回転している円偏光は,3D表示用有機ELディスプレーなどに使用されている新技術として注目されている。多くの発光体は直線偏光であるため,フィルターを用いて直線偏光を円偏光に変換しているが,フィルターを通すことで光強度が減少し,エネルギー効率が悪化するため,円偏光発光体の開発が進められている。
研究グループは,置換基をプロペラ状に組み込んだ、光学活性なBODIPY誘導体の合成に成功した。非極性溶媒methylcyclohexane中で,光学特性を測定したところ,室温(25℃)中では,640nm付近に絶対量子収率32%で蛍光を発することを見出した。光学活性な化合物だが,明確な円偏光発光(CPL)は観測されなかった。
そこで,−120℃まで温度を冷やし測定したところ,絶対量子収率が45%まで上昇し,さらに,2.0×10-3の強い円偏光度でCPLを観測することに成功した。これは,温度を冷やすことにより分子運動が抑えられ,プロペラの向きが制御されたこと,加えて,発光体が超分子相互作用により2量体を形成することから生じることを明らかにした。
従来の室温での測定だけでは,このような化合物の円偏光発光を測定することはできなかったが,今回の研究では,CPL測定装置と低温装置を組み合わせることで,低温状態での円偏光発光を測定することに成功した。今後はCPL測定の幅が広がり,さまざまな特性を持つ円偏光発光体の開発が期待されるという。
将来的には,温度による円偏光発光の有無を切り替えることができる新しい材料として,例えば,一定の条件下でのみ発光することで偽造紙幣を見破ることができる次世代セキュリティ塗料等での活用が期待されるとしている。