船井電機は,産業技術総合研究所(産総研)が開発した光走査素子(以下「メタルミラー」)をもとに大面積走査用の測距センサを試作開発した(ニュースリリース)。
産総研では,十数年前よりエアロゾルデポジション法(AD法)と呼ばれる独自のセラミックスコーティング技術で圧電膜駆動による光走査素子の研究に取り組んできた。その中で独自のラム波共鳴駆動原理とメタルベース構造を考案し,光学素子の性能向上とコスト低減とが可能であることを発表した(2010年9月ニュースリリース)。
光走査素子は,レーザーやLEDなどの光を走査させるデバイス。MEMSミラーやポリゴンミラーといった従来の光走査素子は性能面・コスト面で制約がある一方,産総研のメタルミラーは,低コストで高速な走査速度と広い走査角度の両立を実現させ,これまでの技術課題を解決する光走査素子となっている。
船井電機は,このメタルミラー方式の光走査素子について産総研から技術移転を受けて実用化開発を進め,それを応用した測距センサの試作品を開発した。試作品は,メタルミラーの特性を活かし,低コストで従来にない約4m2の大面積の広角検知が行なえるTOF(Time of Flight)方式の測距センサー。
この測距センサーに用いた光走査素子の試作品は,開発当時限界とされていた10mm角を超える20mm×25mmのミラー反射面積を持ち,当時安定動作の下限とされていた周波数である100Hzを大きく下回る15Hzで共振動作するメタルミラーで,TOF方式に必要な受光感度を確保し,振れ角140度を,船井電機が試作したメタルミラーで確認した。
また,実用化上の課題として残っていた環境温度変動に影響されないミラーの安定動作についても,独自の構造設計と制御方式により広い温度範囲で実製品に適用可能な1%以下の変動幅を実現した。
今後は,この試作品をもとに検証を行ない,光走査素子としてのメタルミラーの信頼性向上,また,その応用デバイスの性能および信頼性向上を図るとともに,市場・業界からの声を反映させた光走査素子,応用デバイスに仕上げていくとしている。