京大,近赤外域で残光を示す蛍光材料を開発


京都大学の研究グループは,紫外線など蛍光体を光らせるために必要な励起光の照射なしで,生体の透過率の高い「第三生体窓」と呼ばれる,波長1.5ミクロンから1.65ミクロンの近赤外領域で長時間強い残光を示す新しい蛍光体材料の開発に成功した(ニュースリリース)。

通常の蛍光体は,紫外線など蛍光を促す信号が遮断されると発光が減衰・消失し,蛍光寿命は長いものでもミリ秒単位でしか維持できない。一方,長残光蛍光体は,励起源を遮断後も数秒から十数時間といった長時間発光し続ける。この特異な性質を持つ可視長残光蛍光体は時計の文字盤や緊急避難用の標識などに夜光塗料として既に用いられている。

近年,深赤色の長残光蛍光体が,第一生体窓と呼ばれる生体透過性の高い波長領域と合致すること,励起光照射不要であるといったメリットから生体イメージングへの応用が期待されている。

長残光蛍光体を用いた生体イメージングでは,蛍光プローブを生体に注入する前に,紫外線を照射することで,光エネルギーを材料中に蓄えることができるため,発光を誘起するために生体外部から紫外線などの光励起が不要。

これまでは,シリコン半導体CCD検出器が利用できる第一生体窓(650~950nm)の波長領域に,残光を有する蛍光体においてのみ,バイオイメージングの報告がなされてきた。

しかし,1μmよりさらに長波長の領域には,第二生体窓(1000~1350nm),第三生体窓(1500~1800nm)といった生体光透過性の高い領域が存在しており,近年の近赤外半導体(InGaAs)検出器の進歩も合わせて,第二・三生体窓における残光蛍光体の生体イメージング応用が期待されている。

研究グループは,Ce3+(電子ドナー兼可視発光中心),Cr3+(電子トラップ),Er3+(近赤外発光中心)を微量に添加したイットリウム(Y)アルミニウム(Al)ガリウム(Ga)ガーネットと呼ばれる結晶構造の金属酸化物において,Er3+の4f-4f遷移を利用した1.5~1.6μmの近赤外残光の発現に世界で初めて成功した。

今回開発した材料は,より光散乱損失が低く,生体透過性の高い長波長で,かつ半導体検出器の最も感度の高い波長(1.55ミクロン)域で,励起源照射不要の長残光を示す。この材料を用いることで,紫外線を照射した場合に生じる周囲の生体自家蛍光によるノイズを防ぐことができ,高感度の生体イメージングが可能となるという。

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