東北大学は,CNRS(フランス国立科学研究センター),CEA-Grenoble(フランス原子力庁),茨城大学の研究者らとともに,ウラン化合物URu2Si2の「隠れた秩序」に近接する強磁場中の磁気相がスピン密度波を形成していることを世界で初めて発見した(ニュースリリース)。
放射性物質であるウランは,核燃料だけでなく,基礎物性研究の対象としても長い間興味がもたれてきた。ウラン化合物のなかでもURu2Si2は,17.5K(約-255度)以下の極低温下で「隠れた秩序」と呼ばれる正体不明の相転移を起こすが,この「隠れた秩序」は発見から30年たった今も解明されていない。
「隠れた秩序」は強磁場を加えると,磁化の階段的なとび(メタ磁性)を示して,壊れることが分かっている。メタ磁性が起こるときの磁気的な状態を調べることは,「隠れた秩序」そのものの解明につながる。このため,強磁場中での磁気的な状態を実験的に明らかにすることが待ち望まれていた。
今回,約0.1秒間の短時間に40テスラ(地磁気の約100万倍)ものパルス強磁場を用いて,研究用原子炉から出てくる中性子を利用した磁気散乱の実験を,フランスの ILL(ラウエ・ランジュバン研究所)で行なった。その結果,「隠れた秩序」が壊れた特殊な磁気秩序相が,スピン密度波であることを世界で初めて明らかにした。
スピン密度波とは,スピンの密度が一定の波長で空間的に変動することで,金属の顔とも呼ばれるフェルミ面とも密接に絡み合った現象。「隠れた秩序」には,もともと2種類の磁気励起が知られており,強磁場を加えることで,そのうちの一つが現れてきたのではないかとしている。
パルス強磁場中の中性子散乱実験は,きわめて高度な実験技術であり,世界で研究グループ以外に誰も行なっていないという。今回の研究成果は,日本とフランスの研究者がお互いに技術を持ち寄ることにより初めて実現した。これは,URu2Si2の「隠れた秩序」解明につながるだけでなく,強磁場中の磁気状態を解明する技術を確立したという点でも意義があるという。また,強磁場中の新奇な量子相の発見にも期待がかかるとしている。