理化学研究所(理研)と土木研究所の共同研究チームは「理研小型中性子源システムRANS(ランズ)」を用いて,コンクリート内の空隙および水に対する反射中性子(後方散乱中性子)を利用する非破壊検査法を開発した(ニュースリリース)。
コンクリートの劣化には水が影響する。例えば,自動車や人などの荷重を受け止める橋の床版(しょうばん)では,雨水や荷重の影響により,アスファルト舗装の下のコンクリート上面でひび割れや土砂化が発生し,コンクリート塊の抜け落ちに至ったケースも報告されている。
床版などは利用者を直接支える部材であることから,第三者の被害を防ぐためには,予防保全的なメンテナンスが必要となる。
理研では,インフラ構造物の非破壊検査にも利用できる小型中性子源システムRANSを開発している。しかし,従来想定していた透過中性子による測定では,レントゲン撮影のように中性子源と検出器で測定対象を挟み込む必要があり,測定可能な状況が限られていた。
そこで共同研究チームは,後方散乱中性子を用いる手法を開発した。この手法では検出器を中性子源と測定対象の間に設置し,入射した中性子が検出器に戻ってくるまでの時間と量の変化を計測することで,コンクリート内の水分や空洞の分布を観察する。したがって中性子源と検出器で挟み込めない道路橋の床版や,空港の滑走路,トンネル壁の非破壊検査に適用できるという。
実証実験では厚さ方向に中性子を入射し内部構造を計測した。その結果最大で30cm奥にある水に見立てたアクリルブロックや空洞の位置を二次元分布で特定しインフラ構造物の非破壊検査法として適用できることを実証した。
今後,インフラ構造物付近へ持ち込み可能な「可搬型加速器中性子源」の開発とともに,測定時間短縮のための検出器改良や計測の最適化を行いコンクリート内劣化損傷の検出能力の向上を目指す。