東京大学の研究グループは,原子核のようなミクロな物体で相転移が起こるかどうかが謎であったが,ジルコニウムのアイソトープで中性子の数の変化に呼応して量子相転移が起こることを理論的に発見した(ニュースリリース)。
研究グループはスーパーコンピュータ「京」等を用いた,原子核の陽子—中性子多体構造に関する大規模数値シミュレーションを進めており,この研究の計算科学面はその成果の一つ。さらに日独共同研究で,ドイツのダルムシュタット工科大学で実験が行なわれ,日本は理論面で参加し,同時に連続論文で発表する。
研究グループはスーパーコンピュータ「京」等を用いての大規模な数値シミュレーションにより,最大で1023次元の行列対角化に相当する殻模型計算を行ない,実験データの特異性を初めて再現し,第2種殻進化が量子相転移の源であることを解明した。さらに,量子相転移が起こる直前の様子が実験により示され全体像を明確化した。
相転移は無限とも言っていい位多数の粒子からなるマクロな系で見られる現象。それに比して,数十個の粒子(今の場合は陽子と中性子)だけから成るミクロで量子的なシステムで,量子相転移という本質的には同様の現象が起きることを示した。
このような相転移が起こるためにはマクロな系とは異なるメカニズムが必要であり,それが東大からのオリジナルな発信である第2種殻進化であることも示した。
このようにして,世界でどこも成功していなかった,原子核での量子相転移の発見の論文を出版し,さらには,そこに至る道を見せたもう一篇の日独共同の実験論文も続いての同時出版となった。これは,「京」のようなスパコンによって初めて可能になる大型シミュレーションの重要性を示すものでもあるとしている。