東北大ら,大容量秘匿光通信システムの構築に成功

著者: sugi

東北大学と学習院大学のグループは, QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調)と呼ばれるコヒーレントな多値信号を量子雑音の中に隠すQAM量子雑音暗号伝送技術(QAM/QNSC: QAM/Quantum Noise Stream Cipher)と,単一フォトンに近い極めて微弱なレーザー光で暗号の生成と解読のための鍵を安全に配信する量子鍵配送(QKD: Quantum Key Distribution)技術を組み合わせることにより,極めて安全でかつ高速・大容量な秘匿光通信システムを世界で初めて実現した(ニュースリリース)。

高速・大容量な通信システムがグローバルに運用されている中,情報の安全性を確保することが極めて重要になってきている。

これまでに多種類の KD方式が報告されているが,中でも単一光子に近い微弱なレーザー光に4値の位相変調を与えて鍵情報を送信し,受信側で強い強度の局発光を用いて量子雑音限界のホモダイン検波を行なう4値QKD方式は,光通信用の一般的な素子を用いることができ,実用性が高い。

しかしながら,このQKDと使い捨て鍵暗号を用いた量子暗号方式は大変強力なものである一方で,元の通信文と同じ長さの使い捨ての共通鍵を受信者に配送する必要があり,このため量子暗号の速度は鍵配送の速度(数100kb/s)で制限されてしまう欠点があった。

これに対し,東北大学では光信号の位相および振幅を同時に多値で変調するQAM (Quadrature Amplitude Modulation)方式のデータを量子雑音の中に埋もれさせて暗号化する量子雑音暗号(QNSC: Quantum Noise Stream Cipher)伝送方式を2013年に提案し,10~40Gb/sのデータ速度で480kmの伝送を実現している。

しかし,QNSC方式は共通鍵を送受信者間で予め共有する方式のため,この鍵を最初から共有するとその管理も含め盗難などの問題がないわけではなかった。

今回,東北大学が開発してきたQAM型QNSC方式と,学習院大学が開発してきた4値QKD方式を組み合わせることにより,高速・大容量かつ極めて安全な秘匿光通信システムを世界で初めて実現。共通鍵を1秒毎に更新しながら単一チャンネル70Gb/sの高速暗号データを100km伝送することに成功した。

今回開発した秘匿光通信システムでは,信号の生成速度は5Gsymbol/sだが,暗号化および復号化回路を 10Gsymbol/sに増大させることで容易に100Gb/s以上のデータ速度が実現できる。またWDMと組み合わせるとテラビット領域の暗号技術が容易に実現する。

一方,伝送距離はQKD方式により100kmに制限されているが,複数台のQKD装置を配置して量子鍵を多中継配信することにより,数100kmの長距離伝送が実現可能。

今日ではQAM方式を用いた100Gb/sデジタルコヒーレント伝送技術は商用システムへの導入が始まっている。今回開発した秘匿光通信システムは,この光伝送システムそのものであり,光通信の流れとの整合性が高く,サイバー攻撃に強いセキュア通信の実現に大きく貢献するものとしている。

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