東工大ら,ガラスの新しい物性制御法を開発

JST戦略的創造研究推進事業において,東京工業大学と米パシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)は,電子化物ガラスが,従来のガラスと大きく異なるユニークな物性を持つことを,実験と計算によって初めて明らかにした(ニュースリリース)。

液体の構造が凍結される温度(転移温度)などのガラスの物性は,ガラスの網目を形成する成分(NWF)とそれを切断する成分(NWM)の比,つまり化学組成で決まる。

研究グループは,12CaO∙7Al2O3(マイエナイト)電子化物(C12A7:e)のガラスを作製し,物性と構造を検討したところ,化学組成はそのままにも関わらず,酸素イオンの3%を電子に置き換えただけで,転移温度が100℃以上も低下することを見いだした。

これまでに,ガラスの化学組成を大幅に変えることで転移温度を低下させた例は膨大にあるが,これほどの大幅な低下はこれまで報告がなかった。

第一原理分子動力学計算によって電子アニオンの周囲の局所構造とその温度による変化を検討した結果,電子アニオンは他のイオンよりもずっと動きやすいために,微量の電子アニオンが酸素イオンと置き換わることで転移温度が顕著に低下したことが明らかになった。

これまで,転移温度はNWMとNWFの割合で決まるという常識のもと,微量成分でそれを制御することは不可能と考えられてきた。今回の成果により、電子アニオンを用いればそれが可能となることが示された。

C12A7:eは,通常のスパッター法で室温で大面積の透明な薄膜を作製できる。また,できた薄膜は仕事関数が金属のリチウム並みに小さく,しかも大気中で安定というユニークな特徴を持つ。これを利用して有機EL用の電子注入材料としての応用などが検討されている。

また,電子化物ガラスは,全く新しいタイプのガラスであり,今回見いだされた以外にもこれまでの常識とは大幅に異なる物性を持つことが予想され,学術と応用の両面でこれからの進展が期待されるとしている。

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