関西学院大学の研究グループは,葉緑体内の光エネルギーを化学エネルギーに変換する光合成装置の中に,全く新しい酵素が存在することを珪藻で発見した(ニュースリリース)。
海洋性珪藻の一種であるPhaeodactylum tricornutumを使って,機能未知遺伝子Pt43233に,オワンクラゲ緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を継ぎ合わせて珪藻細胞内で発現させた結果,緑色に光るPt43233:GFP融合タンパク質は,葉緑体中心部に存在するピレノイドと呼ばれる部位を貫通するチラコイド膜内部にだけ存在した。
研究チームはPt43233のアミノ酸配列の特徴から,このタンパク質が炭酸脱水酵素であることを予測。この酵素を精製して活性を調べた結果,高い炭酸脱水酵素活性を見いだし,このタンパク質を新たにθ型炭酸脱水酵素と名付けた。
θ炭酸脱水酵素を過剰に作らせた珪藻の光合成効率は上昇し,逆に人為的に抑制すると,光合成効率や分裂速度が低下した。炭酸脱水酵素は重炭酸イオンを水素イオン(プロトン)と結合して迅速に二酸化炭素にすることができる。
チラコイド膜の内側は,光が当たって光合成をしている時にはプロトンが蓄積されて酸性になっている。このタンパク質はチラコイド膜内腔で重炭酸イオンとプロトンのバランスを調節しながら二酸化炭素を発生させて,固定回路(カルビン回路)に供給していると考えられるという。
別起源の炭酸脱水酵素(α型)に基づいた同様の仕組みが,系統も生育環境も全く異なる淡水性緑藻にも存在すると考えられている。多様な起源から獲得された藻類CCMの最終段階は,チラコイド膜内腔で光,重炭酸イオン,およびプロトンのバランス調節を駆動力として進化した,統一的な仕組みであることがこの研究から強く示唆された。
海洋性珪藻の光合成は,海洋の主要な二酸化炭素吸収(=酸素発生・食糧生産)源であるため,未来海洋環境の変動予測に,新しい重要因子・理論を提供することが期待される。チラコイド膜内腔の,光に依存した重炭酸イオンとプロトンのバランス調節を駆動力とした光合成進化の仕組みについて,新たな理解が進む。
一方,海洋性珪藻はバイオ燃料や油脂源として注目されることから,珪藻細胞と海水を使った物質生産への原料供給システムの遺伝子工学的改良への応用が期待されるとしている。
関連記事「東大ら,ユーグレナの変異体を効率的に作出・選抜」「農工大ら,バイオ燃料実現のカギとなるオイル高蓄積珪藻の全ゲノムを解読」「阪大ら,XFELでプロトン共役電子移動の反応機構を解明」