理研ら,光照射だけでスピン偏極電流を発生

理化学研究所(理研)らの共同研究グループは「トポロジカル絶縁体」の薄膜にパルス光を照射することにより,外部電場を加えなくても大きなスピン偏極光電流が発生し,この光電流を永久磁石で加えることができる大きさの外部磁場で制御できることを発見した(ニュースリリース)。

トポロジカル絶縁体の表面には,スピンの向きが揃った(スピン偏極した)「ディラック電子」が流れている。通常は逆向きにスピン偏極した電子も流れているため磁性を示さないが,電流を加えることで特定の向きのスピン密度が増加し磁気的性質が変化するため,スピントロニクスへの応用が期待されている。

一方で,電流を加えるとジュール熱の発生によるエネルギーの散逸が発生する。もし,外部電場を加えず光照射だけでスピン偏極光電流を発生させることができれば,トポロジカル絶縁体を省電力の高速スピン偏極電流源として応用できる。しかし先行研究は,円偏光を斜めから照射した場合に比較的小さなスピン偏極光電流が発生したという報告に留まっていた。

共同研究グループは,トポロジカル絶縁体Cr0.3(Bi0.22Sb0.781.7Te3の薄膜を作製し,組成や膜厚制御により光応答を最適化すると同時に,添加した磁性元素Crとディラック電子状態との強い相互作用を利用した。

外部磁場によりCrのスピンを揃え,トポロジカル絶縁体表面のディラック電子への磁気バイアスを制御しつつ直線偏光の赤外線パルス光を照射した際,大きな光電流が発生することを確認した。

電流密度は先行研究に比べて2桁以上大きな値を示した。電流は外部磁場の向きに直交した方向に流れ,外部磁場の正負を逆にすることにより電流の向きも逆転した。さらに,薄膜へのCrの添加に空間勾配を加えることにより,電流量が増加することも分かったという。

この成果は,トポロジカル絶縁体が効率的な高速スピン偏極電流源となりうることを示したもの。スピン偏極光電流を用いた磁化反転などを利用することで,省電力の磁気メモリデバイスや高速磁気情報制御の実現が期待できるとしている。

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