北大,準周期系特有の乱れと原子的構造との関係を解明


北海道大学は,Sc-Zn正20面体準結晶の放射光を利用した詳細なX線回折実験により,その原子的構造を決定し,Yb-Cd正20面体準結晶との構造の違い,フェイゾン乱れ(準周期系特有の乱れ)の詳細と原子的構造との関係を明らかにした(ニュースリリース)。

普通の結晶は,原子が繰り返して配列する(周期性)。一方,準結晶では,原子の配列に繰り返しはないが,規則正しい特異な配列の仕方をする(準周期性)。そのため,普通の結晶には無い,新しい性質をもつ準結晶が発見されることが期待されている。

また,原子的構造をコントロールすることにより,有用な性質をもたせることができると考えられている。この目的のためには,準結晶中で原子がどのような配列をしているかを知ることが重要となる。しかし,現在でも,原子的構造が解明されている準結晶は極めて少ない。

2007年に研究グループは,今回原子的構造を解明したスカンジウムと亜鉛の2種類の元素からなるSc-Zn正20面体準結晶と同種の構造を持つ,イッテルビウムとカドミウムの2種類の元素からなるYb-Cd正20面体準結晶の高次元結晶構造解析に初めて成功した。

研究グループは,放射光(欧州シンクロトロン研究所(ESRF)及びソレイユ放射光施設(SOLEIL);フランス)を用いて,Sc-Zn正20面体準結晶の詳細なX線回折実験を行なった。Sc-Zn準結晶は,2010年に新しく発見された正20面体準結晶。

回折強度データを用いた高次元結晶構造解析により,Sc-Zn正20面体準結晶の原子レベルの構造を明らかにした。また,X線散漫散乱の絶対強度を測定することによって,Sc-Zn正20面体準結晶には準周期系特有の構造の乱れである,フェイゾン乱れが多く含まれることを明らかにし,原子的構造に基づいてフェイゾン乱れによるX線散漫散乱を再現することに成功した。

そして,フェイゾン乱れの微視的な起源を,(a)Tsai型クラスターと呼ばれる準結晶構造を特徴づける原子クラスターの再配列,(b)クラスター以外の部分での ScとZn原子の無秩序な配置,または,(c)原子クラスターの中心にあるZn原子4つからなる四面体の回転の自由度,で説明できることを指摘した。

“準周期性”という特異な構造秩序は,準周期タイリングのタイルの乱れた配列(フェイゾン乱れ)によるエントロピーの寄与により安定化される(ランダムタイリングモデル)と考えられていたが,原子から構成される実際の準結晶構造中で,フェイゾン乱れはどのようになっているのかを,今回初めてSc-Zn正20面体準 結晶において明らかにした。

準結晶は,普通の結晶では見られない性質が期待される“準周期性”という新しい秩序状態を持った固体。工業的に応用されている半導体をはじめとする,結晶性物質の多くの性質は,周期的な原子配列を前提とした物理モデルにより理解されている。準結晶では,原子が準周期的に配列するため,このアプローチが使えない。

そのため,原子的構造をはじめとして,いまだに多くのことが解明されていない。今後,準結晶の原子的構造が次々と明らかとなっていくことで,準周期性の不 思議が解明され,準周期性を利用した新しい物質・材料開発が可能となるとしている。

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