NAIST,紫外線微細加工に繋がる有機素材を発見

奈良先端科学技術大学院大学の研究グループは,太古の地球で起こった原始生命の起源とその素材となる分子が左右のどちらか片方だけという不斉の起源に関する諸説にヒントを得て,紫外光(波長313nm)で簡単に分解される人工らせん高分子(ポリシラン)と,紫外光では分解されない非らせん有機高分子(ポリフルオレン)を混ぜるだけで,不斉の発生→転写→固定→再生というらせん構造転写のシナリオが可能であることを実験室レベルで再現することに成功した(ニュースリリース)。

紫外光で簡単に分解されるらせんポリシランを光分解性の不斉足場として使い,紫外光で分解されない非らせんポリフルオレンと混合させると(高分子ブレンド法),わずか10秒で直径が約2.7μmのコロイド粒子が生成され,ポリフルオレンがらせん構造になって,円偏光を吸収し,青色の円偏光を発した。

ポリシランとポリフルオレンは,静電荷を持たないにもかかわらず,2:1の組成で超分子を形成していた。不斉足場のポリシランを紫外光で完全に分解すると,二つのコロイド粒子(直径2.0μmと0.3μm)に分裂したが,らせんポリフルオレンの円偏光特性はほとんど変化せず,ポリフルオレンのらせん構造をそのまま保持していた。

昨年7月,ロシアの宇宙生物学者は,サーモアネロバクター・シデロフィラスという耐熱性極限環境微生物が980℃以上の超ストレス条件でも生育できることを人工彗星による模擬実験で明らかにした。

さらに今年6月には,米国の電波天文学者が,天の川銀河の中心から390光年離れたサジタリアスB2と呼ばれる巨大な分子雲(太陽の300万倍の質量を持つ)に,不斉分子(プロピレンオキシド)の存在を突き止めた。

生命分子の不斉が発生したとされる38億年前に遡って考えると,地球表面のみならず,地球外の惑星,衛星,彗星,星間物質,星が誕生している分子雲の不斉分子が生命の種子となって,宇宙の片隅で出会った異なる構造の分子にも超分子的に不斉構造が転写され,伝搬しているかも知れず,宇宙のどこかで誕生した生命が地球上に降り立ったという仮説も現実味を帯びる。

一方,応用の見地からは,紫外から近赤外にかけて高効率で発光する円偏光発光材料が注目を集めている。これまでは精緻な分子設計のもと,高価な試薬を使用して多段階の合成経路で多くの労力と時間を費やして合成されてきた。

プロセスやコストから言えば,発光する非らせん高分子とらせんポリシランを単に混ぜるだけで,強く円偏光を吸収し,強く発光する光機能高分子薄膜が常温常圧,無触媒,1-2分(混合5-10秒,紫外線照射30-90秒)という極めて短時間で合成できるのが大きなメリット。

また,ポリフルオレン以外にも種々のパイ共役高分子とポリシランを混合するだけでパイ共役高分子-ポリシラン複合材料が常温常圧,無触媒に得られることも予備実験で確認しており,紫外光照射でポリシラン主鎖が分解して低分子化する特性を用いて,紫外光で書込,紫外可視光で読込可能な情報記録媒体(WORM)や,光リソグラフィーによる半導体高分子の微細回路を直接形成することが可能だとしている。

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