X線天文衛星「ひとみ」,銀河団中心部のガス運動を観測

ASTRO-Hプロジェクト(次期X線国際天文衛星)のメンバーからなる国際研究チームは,X線天文衛星ASTRO-H「ひとみ」打上げの約一週間後から開始した観測装置立ち上げ段階で,搭載された軟X線分光検出器(SXS: Soft X-ray Spectrometer)によってペルセウス座銀河団を合計23万秒間観測した(ニュースリリース)。

取得されたデータから,SXSは打上げ前に見積もっていた以上の分解能を達成し,これまでの20倍以上の精度で高温ガスの運動を測定できることを軌道上で実証した。また,今回のSXSによる観測で,銀河団中心部のガスの運動をはじめて測定することに成功した。

観測の結果,銀河団中心部で,巨大ブラックホールから吹き出すジェットは高温ガスとぶつかり,高温ガスを押しのけているものの,その結果作り出されるはずのガスの乱れた運動は意外に小さい,すなわち高速ジェットが影響を及ぼしているにも関わらず銀河団中心部の高温ガスは意外に静かであるということがわかった。

宇宙最大の天体である銀河団は,100以上の銀河が集まった系で,大量のダークマターの重力により5000万度以上という高温ガスが捉えられている。

また,銀河団中心にジェットを吹き出すなど活発に活動するブラックホールを擁する銀河が存在することも少なくない。ブラックホールによるジェットは周囲の高温ガスを押しのけて広がっているため,高温ガスはかき混ぜられて乱れた流れの状態にあるのではないかという予測もあった。

国際研究チームは,観測装置立ち上げ段階中にSXSで,ペルセウス座銀河団を約一週間かけて観測した。太陽系から約2.5億光年遠方にあるペルセウス座銀河団は,銀河団としてX線で最も明るい。これまでの多くのX線データが取得されており,「標準天体」とも呼べる。

ペルセウス座銀河団中心には,巨大なブラックホールをもつ電波銀河(NGC1275)があり,そこから宇宙ジェット(光の速さに近い高エネルギー粒子の絞られた流れ)が放出されている。

銀河団中心の高温ガスはジェットによって押しのけられている様子が過去の観測で明らかになっていた。そのため宇宙ジェットが周囲の銀河団ガスにどのような影響を及ぼしているかを明らかにするための研究が続けられていた。

巨大ブラックホールから周囲へのエネルギー供給や宇宙ジェットがどのように周囲に影響を及ぼしているかを調べるためには,ガスの運動を調べることが必要。

今回のSXSによる観測で,銀河団の中心から10万から20万光年の範囲では高温ガスの乱れた運動の速さは毎秒164±10km(視線方向の成分)と見積もられた。この運動が発生する圧力は,高温ガスの熱的な圧力の4%に過ぎず,これは予想を下回る低い値だったという。

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