東大,半導体物理学の常識とは全く逆の現象を発見

東京大学の研究グループは,磁性不純物マンガン(Mn)を半導体ガリウムヒ素中に添加してその濃度を増加させた際に,半導体の強磁性転移に伴い電流を担うキャリア(正孔)の散乱が抑えられコヒーレンスが増大する特異な現象を観測した(ニュースリリース

半導体デバイスにおいて,電流の担い手であるキャリア(電子または正孔)の波(波動関数)の乱れを抑えることは,デバイスの特性を向上させる上で極めて重要な課題となっている。

半導体では,素子に電流を流すために,不純物を添加して抵抗を下げる方法が広く用いられているが,不純物濃度の増加に伴い半導体中の電子や正孔の波動関数は強く乱され,デバイスの特性は劣化する。

これは,半導体では古くから知られている大きな問題で,固体物理学や半導体物理学の常識となっている。

今回,半導体ガリウム砒素(GaAs)に磁性不純物マ ンガン(Mn)を添加して,共鳴トンネル分光法を用いて,キャリアの波動関数がどの程度乱されるかを詳細に調べた。

その結果,Mn濃度が0.9%よりも低いときは,予想通りMn濃度の増大に伴い単調に波動関数の乱れが大きくなるのに対して,Mn濃度が0.9%に達し強磁性転移が起こると,波動関数の乱れが突如として強く抑制され,正孔のコヒーレンスが増大することが明らかになった。

この特異な現象は,将来,高速で動作する量子スピントロニクスデバイスの実現につながるとしている。

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