大阪大学の研究グループは,独ミュンスター大学との共同研究により,光合成の効率を調整するタンパク質を新たに発見し,その構造解析と,構造に基づいた機能解析に成功した(ニュースリリース)。
光合成反応は,地球上の全ての生命体を支える重要な反応で,生成する酸素や取り込む二酸化炭素の量が地球環境を決定づけているといっても過言ではない。
しかし、酸化ストレスにより発生する有害な酸素化合物(活性酸素種:ROS)は,生育地での急激な光環境の変化や強い光照射で発生してしまう。
多様で変化に富んだ地球上の光環境に対応するため,光合成生物は生育する場所に合わせて光合成機能を最適化させ,酸化ストレスを減らすよう光環境適応機構を発達させてきたが,その詳細なメカニズムは不明だった。
共同研究グループは,強光適応に重要な役割を果たすカルシウムイオンの濃度と酸化還元状態とを一つのタンパク質が検知して,抗酸化反応に寄与することを解明した。このタンパク質は,緑藻の葉緑体中に見いだされ,カルレドキシンと名付けた。
カルレドキシンは,強過ぎる光が降り注ぐストレス環境下で,抗酸化蛋白質(ペルオキシレドキシン)と一緒に抗酸化反応を進めることが分かった。また,カルシウムイオンを結合し,カルシウムイオンを結合した時だけ酸化還元活性を発揮することを突き止めた。
カルシウム結合状態の立体構造を高分解能で決定し,分子内でカルシウム結合の情報と酸化還元の情報がつながり,抗酸化蛋白質(ペルオキシレドキシン)との分子間相互作用に適した形をとることが判った。
以上のことから,カルレドキシンがカルシウム濃度と酸化還元状態の二つのシグナルを伝える交差点で信号機の働きをして,光合成の効率を調整する新しい蛋白質であることを明らかにした。
時々刻々と変化する光環境に適応するため,光合成生物は様々な環境適応機構を持っている。今回の研究成果のように,光合成の環境適応機構を詳細に解析することで制御タンパク質の改変指針を得ることが出来れば,光合成の人工的な最適化や将来的な光合成機能の強化につながる可能性があるとしている。
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