京産大,赤外線で「ぼやけた星間線」を観測

京都産業大学神山天文台の研究グループは,神山天文台が開発した観測装置「WINERED(近赤外線高分散分光器)」を使い,世界で初めて,ぼやけた星間線(DIB)の原因となる分子の観測に成功した(ニュースリリース)。

100年以上前に発見された『ぼやけた星間線(Diffuse Interstellar Band:DIB)』は,星間空間に存在する複雑な分子が引き起こす光の吸収ではないかと考えられながら,その原因となる分子の正体は未だ十分には明らかになっていない。

現在までに500本以上のDIBが発見され,現在でも様々な波長において新しい種類のDIBが発見され続けているが,昨年度になってようやく同定されたフラーレン・イオン(C60)の4本を除けば,全てが未同定になっており,その正体解明は,天文学の最大の課題のひとつとなっている。

今回,研究グループは,同天文台の口径1.3m荒木望遠鏡に設置された『近赤外線高分散分光器WINERED』を用いて,「はくちょう座OB2星団」と呼ばれるガスに埋もれた星の集団において,DIBキャリアが環境によって欠乏したり,逆に豊富に存在したりしている様子を,初めて赤外線波長域での観測から明らかにした。

この星団は比較的若い星の集団であり,周囲の濃いガスに埋もれている。また,この星団と地球との間には,それらのガスとは別に薄い星間ガスが存在していると考えられている。

通常,可視光線での観測は,上記の薄い星間ガスを通して星を観測することはできても,これらの星団を取り巻く濃いガスを通して恒星を観測することは困難だた。そのため,様々なDIBキャリアが,これらのガスのどの部分に豊富に存在しているのかについては,あまり理解されていなかった。

今回,WINEREDを用いることによって,より透過能力の高い赤外線において星団の星々を観測することができ,星団をとりまくガス雲のより内部まで,DIBキャリアの分布を明らかにした。

濃いガスを見通して様々な環境におけるDIBキャリアの存在量を明らかにすることが,将来のDIB同定に繋がると期待されている。そのため,ガスを透過する能力が高い赤外線は,DIBキャリアの空間分布を研究する上で非常に重要となる。

また,赤外線には,昨年に同定されたC60+など様々なDIBキャリア候補分子の電離イオンが吸収線をつくると予想されており,新たなDIBの発見という観点からも重要な波長域といえる。

今回の研究結果は,赤外線波長域でのDIB探査の重要性を示した貴重な成果であり,同研究グループでは,2015年にDIBキャリアとして初めて同定されたC60+についても,その空間分布(および環境依存性)を明らかにするための観測を進めている。

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