甲南大,「限界を超えた超新星」の起源を解明

甲南大学の研究グループは,国立天文台が企画する光・赤外線天文学大学間連携を通じた共同研究によって,「限界を超えた超新星」の爆発前の姿を明らかにした(ニュースリリース)。

Ia(イチエー)型超新星は,銀河に匹敵するような明るさで輝き,かつどの天体でもほとんど同じ絶対的な明るさを持つことが知られている(以下,Ia型超新星は単に超新星とする)。この性質によって,銀河までの距離を正確に測定することができる。

しかしながら,その重要性にも関わらず,その起源は二つの星が周り合う連星系が起源であること以外未だに明らかになっていない。現在,爆発へ至るシナリオは大きく二つの説が考えられているが,30年以上にわたる論争が続いている。

その二つの説とは,「降着説」と「合体説」。片方が白色矮星,もう一方が通常の恒星である場合,白色矮星への物質降着が起こる。これによって,限界質量に到達し爆発に至る道筋が考えられる。これを「降着説」と呼び,超新星を説明する従来からの有力なシナリオだった。

しかしながら,限界質量を超えた白色矮星の爆発でなければ説明が困難な特異な超新星爆発(以降,『限界を超えた超新星』)が数例発見された。そのような『限界を超えた超新星』は従来の標準的な「降着説」では簡単に説明することができない。

一方で,「降着説」ではなく,二つの白色矮星の連星であり,重力波放出によって互いの距離が近づき最終的に激しい合体を起こして,一気に限界質量を超え,爆発に至る「合体説」であれば容易に説明可能であるという提案もある。果たして爆発起源の正体は何なのか,その解決が待たれていた。

2012年,『限界を超えた超新星』候補であるSN 2012dnが発見された。研究員らはこの天体が天文学的に価値が高いものであると判断し,光・赤外線天文学大学間連携を通して11台もの望遠鏡を総動員し,爆発初期からの観測を実施した。特に,近赤外線波長域に関してはこれまで観測例が非常に少なく,全く新しい情報が得られることが期待された。

観測の結果,通常の超新星では見られない強い赤外線放射を捉えることに成功し,その起源を詳細に解析した。その結果,超新星として爆発する前に起源天体から放出された物質が超新星からの放射によって温められ,この赤外線を放射していることを突き止めた。また,超新星から放出物までの距離は0.2光年程度であることを明らかにした。

『限界を超えた超新星』において爆発前の天体由来の放射が観測されたのは初めて。その放出率を見積もったところ,従来からの有力候補の一つである「降着説」を強く支持するものであることがわかった。「降着説」では,恒星からのガスがゆっくりと白色矮星に降り積もり,限界質量に到達するかあるいは超えて爆発に至るが,この時,爆発直前までガスの移動が続き,二つの星の周囲は密度の濃い物質が存在している。

一方で,「合体説」では,白色矮星が二つ形成された後,合体衝突に至るまで非常に長い時間かかってしまう。そのため,合体前の天体の周囲には放出されたガスはほとんど無くなる。したがって,今回起源天体からの放出物を捉えたことは、「降着説」を支持する結果だとしている。

この研究は『限界を超えた超新星』の起源を明らかにした史上初めての研究成果。『限界を超えた超新星』と,そうでない典型的な超新星の起源は異なるものであるのか,同一起源であるのか,さらなる研究が加速される。

また,どのような理由から白色矮星が限界質量を超えるのかも明らかにされなければならない。高速回転することによって限界質量を超えるというシナリオも提案されているが,そのような天体の観測例は未だない。

この研究における星周物質の探索のアイディアは,赤外線放射の理論的予言に基づくもの。今後は,他の超新星においても同じアイディアに基づいて観測を行なうことで,爆発起源に迫ることができるとしている。

さらに,超新星を使った宇宙加速膨張の研究においても注意が必要となると考えられる。『限界を超えた超新星』は宇宙膨張の加速度測定のサンプルから除かれなければいけないが,今回その起源が理解されたことでこの混入を精度よく排除できるかもしれない。今回の成果は,宇宙膨張の加速をより精密に決定することにつながると期待されるとしている。

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