東北大ら,微細加工した絶縁体表面で電子の蓄積を観察

東北大学と理化学研究所の研究グループは,各種の絶縁体にイオンビームによる微細加工を施して形態を制御し,電子線照射により帯電した絶縁体試料表面で,放出された2次電子の蓄積を,電子線ホログラフィーにより可視化することに成功した(ニュースリリース)。

研究グループは,これまで電磁場を㎚スケールで可視化できる電子線ホログラフィーを用いて,各種先端材料やデバイスの電磁場の観察を行なうとともに,これらの特性発現に主要な役割を果たしている電子の挙動の観察に取り組んできた。

2年前には,絶縁体で複雑な形態をもつ生体試料の帯電効果を利用することで,次第に電子が蓄積する様子や複雑な電場の中で電子が集団的に運動する様子を,電場の乱れを通して直接観察することに成功している。

こうした複雑で微細な絶縁性の生体試料の観察を踏まえ,今回は,一般の絶縁体にイオンビーム加工を施して形態を制御し,電子線照射により帯電した絶縁体試料表面近傍で放出された2次電子の蓄積の様子や挙動が,電子線ホログラフィーにより観察できないか検討を行なった。

まず,ミクロトームを用いてエポキシ樹脂から切片を切り出し,集束イオンビームによる微細加工を施すことにより,生体の微細線維のY字形状を模した試料を作製した。電子線ホログラフィーによる帯電状態と2次電子の蓄積の様子の観察には,加速電圧300kVの透過電子顕微鏡を使用した。

その結果,一般の絶縁体に微細加工技術を活用してその形態を制御することで,電子線ホログラフィーを用いて,試料から放出される2次電子の絶縁体表面での蓄積を観察することが可能となった。また,試料表面に導電性物質を付着させることにより,表面電位を制御でき,これにより電子の蓄積領域を変化できることも明らかとなっているという。

今回の研究成果は,各種の物質やデバイスを用いて,これまで観察出来ないと考えられていた電子の蓄積や複雑な集団運動の直接観察への道を開いたもの。今回開発した手法を用いて,今後ナノスケールでの電子の挙動が追跡され,先端デバイスの高機能化や複雑な量子現象の解明への広範な応用展開が期待されるとしている。

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