東京大学の研究グループは,光子メモリーを用いることにより光子の飛来タイミングを制御し,2光子の飛来タイミングの自在な同期に初めて成功した(ニュースリリース)。
将来の情報処理技術として期待される光を用いた量子情報処理では,情報は単一光子を用いた量子ビットとして処理されている。そして従来の光量子情報処理では,量子論理ゲートにランダムに飛来する光子のうち,たまたま同時に来た光子を測定後に事後選択する手法が取られていた。
この場合,量子論理ゲートは確率的にしか動作しないため,非常に効率が低くなるという致命的な問題(確率的動作問題)があった。さらに,量子論理ゲートを複数動作させると指数関数的に成功確率が下がるため,事実上大規模な量子コンピューターを作製するのは不可能とされていた。
研究グループは,光子メモリーを用いることにより光子の飛来タイミングを制御し,2光子の飛来タイミングの自在な同期に初めて成功した。この光子メモリーは光子の生成とメモリー機能を持ち,2つの連結した光共振器からなる。そのうちの1つの光共振器中には非線形光学素子が入っていて,光パラメトリック発振器となっている。
もうひとつの光共振器中には光位相変調器が入っており,光位相変調器の電圧を制御することにより開閉できる光シャッターとなっている。光パラメトリック発振器は単一光子生成器となっているが,通常は光シャッターが閉じられており,生成された光子は光パラメトリック発振器から外へ出ることができない。
しかし,光位相変調器の電圧を制御し光シャッターを開けば,光子を取り出すことができる。つまり,この光子メモリーでは欲しいタイミングで光子を取り出すことを可能にした。
研究グループは,この光子メモリーを2つ用意し,2光子の飛来タイミングを自在に制御し,2光子を同期してビームスプリッターに飛来させた。これにより,量子レベルでのオンデマンドな干渉に世界で初めて成功した。この光子メモリーを用いると,生成タイミング差が1.8マイクロ秒までであれば同期することが可能で,従来に比べ同期効率が25倍向上した。
この技術により,従来の光量子情報処理の確率的動作の問題は大きく緩和され,この技術をさらに発展させれば,量子論理ゲートの連続動作が可能となる。したがって,この成果は超大容量光通信や超高速量子コンピューターの実用化へ向けた突破口となるもので,光量子論理ゲートの確率的動作問題の解決に大きく近づいたとしている。
研究グループは,今後この技術を発展させ,光量子論理ゲートの連続動作を目指す。また,この技術は,原子などを用いた量子メモリーと異なり,動作波長を選ばない。したがって,あらゆるレーザー波長に対応でき,非常にフレキシブルなため,色々なシステムに組み込むことが容易。
また,この光メモリーは単一光子だけでなく,シュレーディンガーの猫状態などを含む,あらゆる量子状態にも使えることから,量子誤り訂正で最も重要な「魔法状態」を保存することも可能で,光量子情報処理の基本技術となることが期待されるという。
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