日本電信電話(NTT),富士通,情報通信研究機構(NICT)は共同で,周波数帯域を広く確保できることから高速無線への適用が期待されている,300GHz帯を用いたテラヘルツ無線用小型送受信機を世界で初めて開発し,直交偏波を用いた多重伝送により40Gb/sのデータ伝送ができることを確認した(ニュースリリース)。
テラヘルツ無線は,大容量データの瞬時転送を実現するため,数十Gb/s級の伝送速度を実現する技術として有望であり,産業的に未利用である300GHz帯の適用は新たな周波数資源の開拓としても期待されている。
今回,超高速デバイスとして知られているインジウム燐高電子移動度トランジスタ(InP-HEMT)を用いて,送受信機向けに高周波回路を設計,および集積回路(IC)化し,300GHz帯を用いたテラヘルツ無線用小型送受信機を実現した。
送信機は,ICを実装した金属パッケージ間およびアンテナを導波管で接続する一体化構造で実現し,毎秒20Gb/sのデータ送信を可能にした。一方,受信機は,スマートフォンサイズの端末への組み込みを想定して,アンテナ一体型金属パッケージにICを実装することで1ccサイズを実現しており,無線区間を介して受信した20Gb/sの無線信号を復調し,データ信号として出力する。また,300GHz帯の電波伝搬・計測技術について,電波暗室内での実験で検証した。
実証実験では,NTTの担当した送信機,前方誤り訂正(FEC)などの信号処理部,富士通が担当した受信機,NICTが担当した電波伝搬・計測技術を持ち寄り,開発した送信機と受信機を対向させ,20Gb/sのデータ伝送を実施し,その結果,1mを超える伝送距離において,エラーフリー伝送が可能となることを確認した。
さらに,2組の送受信機を用いて,互いに直交する偏波を用いた偏波多重伝送実験を行ない,40Gb/sのデータ伝送が可能であることも確認した。これらの実験を通じて,無線機としての十分な特性と技術の有用性を確認した。
今回開発した送信機を情報端末に組み込み,同じく開発した受信機をスマートフォンサイズの端末に実装し,スマートフォンをタッチすることでデータがダウンロードするサービスを模擬した検証実験を行なった。
実験では,コンテンツサーバである送信側PC内に保管した映像ファイルを用いて,その転送速度について評価した。その結果,2ギガバイト(DVD1枚分のデータを約3秒で伝送する速度に相当)の高速データダウンロードが実証できた。現在,高速ダウンロードサービス実現に向けてはミリ波により検討が進んでいるが,更なる高速化に向けて,テラヘルツ無線が有効であることを確認した。
今後,更なる伝送速度の高速化,通信シーケンスの効率化を図るとともに,周波数の利用検討を見越した,コンテンツダウンロードをはじめとするユースケースの検討に取り組んでいきくとしている。
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