慶應義塾大学と理研の研究グループは,コヒーレントX線回折イメージング法をサブミクロンサイズの非結晶粒子に適用して数十㎚の分解能でイメージングするための実験方式を検討してきた。今回,X線自由電子レーザー施設で供給される30HzのX線パルスをもれなく試料に照射し,短時間に膨大量の回折パターンの収集ができる装置の実用化に成功した(ニュースリリース)。
SACLAでのCXDI実験では,短波長の可干渉X線パルスをサブマイクロメートルの非結晶試料に照射して得られる回折強度パターンを解析することで,数十㎚分解能で試料の投影電子密度像を可視化する。SACLAで得られるX線パルスは非常に強度が大きく,1ショットの露光時間(10フェムト秒以下で信号対雑音比の良好な回折強度パターンを1枚取得できる。
しかし,あまりにも強度が大きいために露光後に試料は破壊されてしまう。研究グループでは,試料粒子が多数散布された薄膜を2次元で並進走査することで新鮮な試料に次々とX線パルスを照射し,X線回折イメージを取得する実験方式を採用してきた。この実験方式であれば,20%-80%の高確率でX線パルスを試料にヒットさせ,良質な回折パターンを1%程度の歩留まりで得ることができる。
しかし,これまでの装置では照射位置の並進に0.5-1秒の時間を要していたために,1秒あたりに利用できるX線パルスも最大2ショットであり,SACLAから30Hzで供給されるX線パルスを最大限活用できない状況にあった。
研究グループは,回折強度パターン収集効率を向上させるため,より高性能な低温試料固定照射装置「高砂六号」を開発 した。実験では,予め凍結し薄膜上に固定しておいた試料粒子を専用の治具を用いて真空槽内部へ搬送する。搬送先の試料台は液体窒素で冷却され,試料を低温に保ったまま回折実験を行なうことができる。
「高砂六号」は,この試料台直下に高速並進・高速応答に優れた並進ステージを搭載することで,SACLAから供給されるX線パルスをもれなく試料に照射することが可能になった。さらに,9枚もの薄膜を12セット一度に真空槽内へ搬送できるようになったため,薄膜を交換する頻度が劇的に少なくなった。
その結果,およそ70時間のビームタイム一回で約200万枚もの回折強度パターンを計測することができた。これは,従来の45倍の計測効率に相当する。
研究グループでは,主に細胞や細胞内小器官に焦点を当てて構造解析を進めてきた。これまでは回折強度パターンから回復された二次元投影電子密度像より生命活動を営む上で重要な物質分布について考察を重ねてきた。しかし,膨大量の回折強度パターンが取得できるようになった今日,二次元像を再構成して三次元電子密度分布を見ることができるようになりつつあり,これまで以上に有意義な議論が展開できるとしている。
関連記事「慶大ら,低温X線回折で細胞を非侵襲・高分解能イメージング」「理研ら,X線回折イメージングの分解能と信頼性を大幅に向上」「慶大と理研,SACLAのコヒーレントX線回折イメージングデータを高速処理するソフトを開発」