大阪大学の研究グループは,棒状分子が自発的にらせん構造を形成するコレステリック液晶からの反射波面を自由に制御する技術を開発した(ニュースリリース)。
コレステリック液晶は棒状分子が自発的にらせん構造を形成する材料であり,らせん構造に起因して,特定の波長を持つらせんと同じ巻き方向の円偏光をブラッグ反射する。
この特性を利用して円偏光デバイスや電子ペーパーなどの応用が検討されてきたが,これまで,コレステリック液晶は入射角と反射角が常に等しい鏡面反射しか示すことができず,視野角特性が優れないなど,性能が限られていた。
研究グループは,コレステリック液晶から反射される光の位相がらせん構造の位相(らせん位相)によって変わることを見出し,らせん位相の空間的な制御を通して,反射光の波面を任意に設計できることを明らかにした。
理論解析により動作原理を明らかにした後,光配向法により,実際にコレステリック液晶のらせん位相の空間分布を形成した。グレーティングやレンズの形状を持つパターニングを行なった結果,平板型のデバイスであるにも関わらず,パターンに応じて反射光の偏向や,集光・発散が生じることが示された。
更に,デバイスの円偏光選択性が失われないことから,らせんと同じ巻きの円偏光に対してのみ機能が発現する,ユニークな光学デバイスが実現できることを明らかにした。
コレステリック液晶が本来有する円偏光選択性を活用することで,高効率な光学デバイスとしての応用が期待できる。例えば,反射によって円偏光がその回転方向を反転させることを利用すれば,偏向機能を持つデバイスを薄型の光アイソレータとして応用することができる。
また,スマートグラスの折り返しミラーにこの材料を用いて,円偏光照明を組み合わせれば,100%近い効率で情報を表示できると考えられる。結果として,現実世界の風景も,スマートグラスで映し出される付加情報もともに明るく,明瞭に見える,高機能なデバイスの実現が可能となると期待される。
光の波面を制御するその他の技術として,微細な金属あるいは誘電体構造からなるメタサーフェスが注目を集めているが,その作製には極めて精密・高コストな加工技術が必要となる。コレステリック液晶は構造が自己組織的に形成される分子性材料であるため,大きなデバイスも比較的容易に作製でき,将来的には印刷技術等によるデバイス作製も期待できるなど,有機材料ならではの特徴がある。
この技術は今後,高機能かつ安価な光学デバイスの創出に貢献することが期待されるものだとしている。
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