SACLA,軟/硬X線FELの同時供給が可能に

理化学研究所(理研),高輝度光科学研究センター(JASRI)は,X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAにおいて,既存の軟X線ビームライン(BL1)の性能を飛躍的に向上させ,軟X線FELを生成することに成功した(ニュースリリース)。

触媒機能の解明やEUVリソグラフィのための基盤研究など,軟X線レーザーが得意とする領域があり,学術や企業の研究者からも,軟X線レーザーには大きな期待が寄せられている。一方,これまでBL1で利用できる軟X線は「レーザー」ではなかったこと,また,BL1と硬X線FELを生成するBL2やBL3とでは運転条件が大きく異なるため同時稼働が不可能という問題があった。

軟X線レーザーの本格利用を実現するため,理研とJASRIはBL1で軟X線FELを生成し,BL2・BL3と独立して稼働させる計画を進めた。このために,SACLAのプロトタイプ機として活用された「SCSS試験加速器」を組立調整実験棟からSACLAに移設し,一部コンポーネントを増強しつつBL1のアンジュレータ(磁石列を上下に配置して,その間を通り抜ける電子から明るい光を放射させる装置)に接続した。

工事は2015年夏に完了し,約500MeVというSCSSから倍増した加速エネルギーを達成した。2015年10月には波長30nm付近においてレーザー発振を確認し,その後の調整運転も順調に継続してきた。

2016年4月には,BL1の正式名称を「SXFELビームライン」に改め,上期には,初のユーザーによる利用実験が行なわれる予定。さらに,2016年夏までには加速管をさらに追加して加速エネルギーを750MeV以上に向上させる予定。これにより,最短波長は12nm以下まで到達する見込み。

プロトタイプ機であるSCSSを再活用することで,SACLAで軟X線FELを生成することに成功した。 極めて明るい軟X線によって,極短時間の現象を鮮明に捉えながら,排ガスを効率よく浄化する触媒の開発や半導体デバイスの微細化の実現につながると期待できる。

SACLAは,世界で唯一の軟X線FELと硬X線FELを同時に供給する施設として,さまざまな学術・産業の発展に今後も貢献していくとしている。

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