東工大ら,2次元新材料トランジスタを開発

東京工業大学と理化学研究所,岡山大学からなる共同研究チームは,新しい二次元材料である二硫化ハフニウム(HfS2)を用いたMOSトランジスタを開発した(ニュースリリース)。

LSIの基幹素子であるMOSトランジスタの素子サイズの縮小化は,チャネル長さは10nm以下の領域まで縮小化が進みつつあり,この領域ではチャネル厚さについても数nm以下まで削減することが望ましい。しかし従来の半導体材料系では表面に原子レベルの凹凸が存在し,極薄膜では電流輸送特性の急速な劣化による駆動能力低下が避けられない。

二次元材料は原子レベルの平坦性・厚み(1nm)を実現可能であり,グラフェンは100,000cm2/Vs以上という高い移動度が予測されているが,バンドギャップを持たない。そこでバンドギャップを有する二次元材料の代表として二硫化モリブデン(MoS2)が研究されているが,電子移動度が理論上あまり高くないという問題があった。

(HfS2)は理論予測で,単原子層の厚さ(約0.6nm)において1800cm2の電子移動度と1.2eVのバンドギャップが報告されている。これらはシリコンの物性値を上回っており,電子デバイス材料として優れた性質を1nm以下の厚さで実現できる可能性を示している。一方で単体の結晶としては導電性が低いため,これまで半導体材料としては注目されなかった。

実験ではスコッチテープを用いた機械的剥離法により数原子層の厚さを持つ(HfS2)薄片を基板上に転写した。原子間力顕微鏡による評価では2~10原子層程度の厚さをもつ薄片が確認された。これら薄片上に金属電極を形成し,裏面半導体基板をゲート電極としたMOSトランジスタ構造を作製した。

電流電圧特性では良好な飽和特性を持つトランジスタ特性を確認し,ゲート変調による電流のオン/オフ比も104が得られた。これにより従来絶縁体と考えられていた(HfS2)が電子デバイスとして利用可能であることを明らかとした。

さらに大きなゲート容量により,低い電圧で多くの電子を発生させ,高電流での動作が期待される電解質ゲルをゲートとした電気二重層トランジスタと呼ばれる構造を用いた特性評価を行なった。オン/オフ比105を維持しつつ,従来の遷移 金属ダイカルコゲナイドを上回る電流密度が得られた。これは,(HfS2)のもつ電子デバイスとしての優れた特性を示唆する結果。

研究グループは今後,(HfS2)表面を適切に保護するとともに電極との接触を改善することで,電解質電極と同等の性能を固体ゲート絶縁膜を用いて実現し,超低消費電力デバイス実現へ向けた取り組みを行なう。また,(HfS2)は他の二次元材料との異種材料接合における顕著な量子効果の発現が見込まれ,二次元系トンネルトランジスタ等への発展的な応用も期待されるとしている。

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