東工大,鉄系超伝導体の臨界温度を4倍に

東京工業大学は,鉄系超伝導体の一つである鉄セレン化物「FeSe」のごく薄い膜を作製し,8ケルビンで超伝導を示すバルク(塊)より4倍高い35Kで超伝導転移させることに成功した(ニュースリリース)。

鉄系超伝導体は,超伝導発現には最悪と信じられてきた磁性元素である鉄を主成分として含むにもかかわらず,ヒ素と組み合わせ,かつ電子を添加することで,高Tcで超伝導を示すという意外性に注目が集まった。現在の最高Tcは55Kに達し,銅酸化物超伝導体の130Kの次に高い温度となっているが,銅酸化物系のTcの方が2倍以上高い。

銅酸化物と鉄系超伝導体は,超伝導体のもととなる親物質(母相)が反強磁性体であり,伝導を担うキャリア(電子もしくは正孔)を添加することで,その反強磁性の磁気的な秩序が消失し,超伝導が発現するという共通点をもつ。

一方,母相の性質として根本的に異なる点も知られており,銅酸化物の母相はエネルギーギャップを持つ「モット絶縁体」であるのに対し,鉄系物質の母相はギャップを持たない「金属」である。この違いが銅酸化物と鉄系超伝導体の最高Tcの違いに関係していると考えられるという。すなわち,「絶縁体」母相のほうがより高Tcにつながる可能性があることになる。

鉄セレン化物FeSeは,バルクではTcが8Kの超伝導体だが,試料の厚さをナノメートルオーダーまで極端に薄くすると超伝導体ではなく,絶縁体のような挙動を示す。

そこで,ナノメートルオーダーまで薄くしたFeSe薄膜は,銅酸化物超伝導体のような高Tcを示す物質の「絶縁体」母相となりうる可能性に着目し,外部から電界をかけて高濃度の電子を誘起することによって,絶縁体から金属のように電気がよく流れる状態,そしてさらには超伝導状態の実現に挑戦した。

その結果,絶縁性母相とみなせる鉄系物質で高濃度のキャリア添加をすることによって銅酸化物超伝導体並みの高いTcを狙うという,今回の研究成果の有用性を実証した。

今回の結果により,高Tc実現のための物質選択および実験手法の選択の両方の有用性を示すことができた。今後,より高いTcの超伝導体探索の新しいルートを提供するものとしている。

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