産総研,衛星の光学センサーデータを無償提供

産業技術総合研究所(産総研)は,地球観測衛星データを処理した付加価値プロダクト「ASTER-VA」を,平成28年4月1日から無償で一般に提供する(ニュースリリース)。

人工衛星に搭載したセンサーから地球表面付近を観測する衛星リモートセンシング技術は,地球を広範囲に同じ指標(センサー)で継続して測定できることから,地球規模の環境影響評価や,台風や地震など大規模災害時の被害推定などに広く利用されている。

一方で,過去に撮影した衛星データには限りがあり,特に2000年代初頭から10年以上の長期にわたって観測を行なっている例は少ない。地球観測衛星として最も長期間運用され,2008年からは衛星データが無償公開されているランドサットも2003年にセンサーの不具合により観測データの一部に欠損が生じた。こうした背景から,ランドサットと同様の性能を持つ無償で利用可能な衛星データへの潜在的な需要が高かった。

産総研は,米国航空宇宙局(NASA)が運用する地球観測衛星TERRAに搭載された経済産業省開発の光学センサーASTERで観測された衛星データを,NASAからインターネット回線を通じて取得・処理し,わかりやすいインターフェースで提供する。

産総研はASTERセンサーの開発段階から携わり,運用を開始した2000年から15年以上にわたり,ASTERから得られるデータを保管してきた。

こうした地理空間情報の活用を推進するためには,ASTERから得られる従来のデータに,産業ニーズに対応した付加価値をつけた高品質なデータを知的基盤として広く公開する必要があると考えられるため,今回,NASAの協力のもと,幅広いビジネスで利用できるASTER付加価値プロダクトASTER-VAを提供するシステムの研究開発を実施する。

ASTERは設計上,青バンドの情報を持たないため,青色を推定して擬似天然色画像を合成する独自技術を開発し,人間が目視で判読しやすい天然色データに変換する機能をシステムに搭載した。これにより,例えば森林地域がより自然に近い緑色となる。また,衛星データは他の地理空間情報と重ね合わせるためには地形補正が必要なため,全てのASTERデータに地形補正(オルソ補正)を施して地理空間情報と容易に重ね合わせができるようにした。

また今回提供を開始する地球観測データの空間分解能は,これまで無料で自由に利用できるランドサットのデータの空間分解能よりも高く,バンド数も多い。可視光線領域・近赤外線領域で15m(3バンド),短波長赤外線領域で30m(6バンド),熱赤外線領域で90m(5バンド)となっている(無料公開中のランドサット8号の場合,可視光線領域~中間赤外線領域で30m,9バンド(バンド8のみ15m),熱赤外線領域で100m,2バンド)。

また,これらの衛星観測データに加えて,ASTERデータから作成した標高データも提供する。ASTERは、当初の設計寿命であった5年を大幅に上回る15年以上の観測実績があり,今後も長期観測が可能な状況。

今後はハードウェア(ASTERセンサー)と,アーカイブを含む運用の効率化と配信に係る研究開発を宇宙システム開発利用推進機構との共同研究計画に基づき進める。また,ASTERを用いた新たなビジネス創出を希望する企業との共同研究を推進するとしている。