首都大,トポロジカル結晶絶縁体を超伝導化

首都大学東京の研究グループは,トポロジカル結晶絶縁体であるSnTeにAgを部分置換することで,新しい超伝導体Sn1-xAgxTeを合成することに成功した(ニュースリリース)。

物質はその電気的性質から絶縁体(半導体),金属,超伝導体に分類されるとされてきたが,単純にこれらに分類できない性質を示すトポロジカル絶縁体が近年注目を集めている。トポロジカル絶縁体の内部は絶縁体の性質を示すが,その表面では特殊な金属の性質が現れる。

表面に現れる特殊な電子状態を利用した新たな電子デバイス応用が期待されており,研究開発が進められている。また,最近では新たなトポロジカル絶縁体としてトポロジカル結晶絶縁体の存在が理論的・実験的に示され,世界中で研究開発が進められている。

SnTe(スズテルル)はトポロジカル結晶絶縁体の一種であり,Snの一部を In(インジウム)で 元素置換することで超伝導を示すことが知られている。Inを 40%置換したSn0.6In0.4Teにおいて最も高い超伝導転移温度(Tc=4.8K)を示すが,その超伝導機構およびドーパントとしてのInの役割は完全に理解されていない。

一方,Sn1-xInxTe超伝導体はトポロジカル超伝導体の候補物質であることが示されており,注目されている。これらの研究背景から,SnTeに発現する超伝導をより深く理解し新規な研究分野として確立するために,Inドーピング以外の手法でSnTeを超伝導化することが重要な課題である。

今回,研究グループはAgドーピングによるSnTeの超伝導化を目指し,高圧合成法を駆使することで,常圧環境下では得られないSn1-xAgxTeの合成に成功した。常圧合成による先行研究では,Sn1-xAgxTeの元素置換限界値はx=0.1程度とされており,相分離が生じる(異なる格子定数を持つ相1と相2に分離する)。

研究では,高圧合成法を用いることでSn1-xAgxTe(x=0-0.5の広いドーピング領域)の合成に成功した。x=0.15,0.2,0.25の高圧合成試料において大きな超伝導シグナルを伴う超伝導転移(バルクな超伝導転移)を確認した。Tcおよび超伝導シグナルの大きさ(超伝導状態の体積分率と相関)はx=0.2で最高となり,Tcは約2.4K。

また,電気抵抗率測定においても超伝導転移を確認した。バルクな超伝導が発現するのは格子定数が6.13-6.21Åの領域であり,高圧合成法を用いることで相分離を抑制し,バルクな超伝導を示す組成・結晶構造を安定化することができた。

Sn1-xAgxTeの物性を詳細に解明することで,トポロジカル超伝導などの新奇な超伝導状態を見出せる可能性があるという。また,研究が示したとおり,高圧合成法はSnTe系およびその周辺物質の新物質開発における有用な手法となる。高圧合成法により新たなトポロジカル絶縁体,超伝導体,熱電変換材料等の機能性材料が開発されることが期待されるとしている。

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