福井大ら,青年期ASD患者の視線パターンを装置で検出

福井大学と日本医療研究開発機構は,臨床場面でも簡便に実施できる視線計測装置Gazefinder®を使って,思春期・青年期の自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)男性に視線計測を実施し,ASD群に特有の視線パターンを検出することに成功した(ニュースリリース)。

ASDの診断基準の1つである社会性の困難の中に,アイコンタクトの異常(視線が合わない)が含まれている。診察場面では,この診断基準は医療者によって主観的に判断がなされてきた。一方で,社会的情報(人,特に人の顔の目,点がまとまって動いて人の動きに見えるバイオロジカルモーションなど)が提示された時に,ASD児者は特有の注視パターンを示すことがこれまでに多くの研究で報告されている。

しかし,これまでの研究で使用された機器は,実際の臨床場面で使用するには設備や準備の関係で難しいという問題点があった。そこで,大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科とJVCケンウッドが,幼児期の社会性を客観的に測定することを目的としてGazefinder®が開発された。

この装置は社会的な情報を含む映像が流れるモニターと視線を検出するカメラが一体化した視線計測装置で,難しい準備が必要なく実施ができ,対象児者はモニターに流れる映像を約2分間眺めているだけで簡単に計測できる。結果は自動的に算出され,実施後すぐに結果を確認することができる。

しかし,この装置は幼児用に作られた経緯があるため,思春期・青年期においても,この装置は社会性を客観的に測定するのに有用かどうか,また結果からASD群と定型発達(健康成人)群をどれだけ正確に弁別することができるかを確認することを目的として研究を実施した。

知的障害を伴わない思春期・青年期ASD男性群(ASD群)26名(年齢16歳~40歳)と同年齢の定型発達男性群(定型発達群)35名(年齢20歳~41歳)にGazefinder®による測定を実施した。分析の結果,ASD群で特有の社会的情報への注視パターンが認められた。この結果から,社会性の一部分であるアイコンタクトの異常など独特の注視パターンを客観的に測定する方法として,Gazefinder®が有効であることがわかった。

また,その注視パターンを利用して判別分析を行なうと,感度81%(ASD群の81%を正しくASDと判別),特異度80%(定型発達群の80%を正しく定型発達と判別)といった高率で判別ができた。これからの結果から,この装置は思春期・青年期の男性におけるASDの診断補助機器の1つとして有用であるとしている。

この成果は,これまで医療専門家の主観的な判断に頼ってきたASDの診断に客観的な指標を加えることができる点で,ASDの診療に大きな影響を及ぼすとしている。ただし,この装置で測定できるのは,あくまでもASDの特徴である社会性の障害の一部に過ぎず,その結果だけでASDの診断ができるわけではなく,ASDの診断に熟練した専門家の判断の補助として有用な機器であるとしている。

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