東工大ら,有機化合物で巨大な熱電効果を発見

東京工業大学,韓国梨花女子大学,パリ高等物理化学学校らの共同研究グループは,有機化合物(TMTSF)2PF6(テトラメチルテトラセレナフルバレン塩)の低温の半導体状態において,現在最も利用されている熱電変換材料の100倍にも達する巨大な熱電効果を発見した(ニュースリリース)。

物質の両端に温度差を与えると,起電力が発生する現象をゼーベック効果と呼ぶ。ゼーベック係数Sはこの効果の大きさを表す尺度であり,温度差1 K(絶対温度)当たりに発生する電圧で定義される。ゼーベック効果は排熱エネルギーを電気エネルギーに変換可能な技術として注目され,高効率の熱電変換材料の開発は大きなゼーベック係数をもつ半導体を中心として,現在精力的に行なわれている。

このような特性をもつ半導体は、温度を下げると電気が非常に流れにくい状態へと変化する。この時ゼーベック係数の大きさは減少することが多くの実験で確認されており、絶対零度では消失するという理論予測が一般に広く信じられている。

一方,最近電子間のクーロン相互作用が強い,強相関電子系と呼ばれる金属物質において,電子相関の効果により大きな熱電効果がもたらされることが分かってきている。半導体においても電子相関の効果により熱電効果が増強され得るのかということは興味がもたれる点でだが,これらの点は実験的にはまだ全く分かっていない。

研究グループは,温度変化に伴いマイナス261.15 ℃(絶対温度12K)で金属から半導体へと変化する強相関電子系の有機化合物(TMTSF)2PF6(テトラメチルテトラセレナフルバレン塩)を研究対象とし,そのゼーベック係数を極低温まで精密に測定した。その結果,同物質のゼーベック係数|S|は電気が非常に流れにくい極低温下でも顕著な増大を示し,マイナス273.05℃(絶対温度0.1K)付近では40mV/Kと非常に大きな値に達することを見出した。

このようなゼーベック係数の温度変化は,低温で減少傾向を示す多くの半導体とは明らかに異なる振る舞い。また得られたゼーベック係数|S|の最大値は,典型的な半導体材料のシリコンやゲルマニウムに比べ10倍大きく,また現在最も利用されているBiTe系の熱電変換材料の100倍と非常に巨大。

このように半導体のゼーベック係数が,絶対零度近傍の十分低温においても増大を続け,有限かつ巨大な値をとることは,広く信じられてきた従来の理論予測を覆す驚くべき結果であり,半導体の熱電現象に対する考え方に修正を迫るものだとしている。

一方,電子間にはたらくクーロン相互作用によって半導体のゼーベック係数が低温においても有限に残るという予測が過去に存在する。今回の発見は,この可能性を含めた新しいメカニズムに基づく新奇な現象であることが強く示唆されるもの。

今回の研究成果は,固体の熱電現象における基礎学術研究上の重要性をもつばかりでなく,今回見出された知見を基盤とした巨大な熱電効果を発現する物質の開発に重要な指針を与えることが期待されるものだとしている。

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